プレーオフの末に来季の残留を決めたサッカーJ1の湘南ベルマーレ。パワハラ問題に揺れたクラブを救った浮嶋敏監督(52)は「苦しいシーズンを乗り越えられた。選手たちのおかげ」と喜ぶ。過酷なミッションを成し遂げた陰には、地道な情報収集と営業マン時代の経験を生かした指導があった。
試合終了の笛に膝から崩れ落ち、大の字になって倒れ込む。スタッフが次々と折り重なり、子供のようにはしゃいだ。本拠地・ShonanBMWスタジアム平塚の大歓声を浴び、「逆境を乗り越えるのが湘南のDNA」と胸を張った。
ベルマーレのU─18(18歳以下)監督から昇格したのは10月上旬。プロ選手の指揮は初めてだが、リーグ戦は残り6試合。まずは「選手に自信を持たせる」ために時間を費やした。
日々の練習を撮影した動画をこまめにチェックし、各選手の長所と短所を洗い出した。休養日も喫茶店で日が暮れるまで過ごし、対戦相手を丸裸に。指導者ライセンス取得時に同期だったJ1川崎フロンターレ・鬼木達監督(45)にも「ミーティングの回数は何回、タイミングはいつがベストか」と、電話で質問攻めにした。
蓄積した情報は全てを伝えきらずに我慢した。「相手に理解してもらうには取捨選択が大事」との学びは、富士通サッカー部(現川崎フロンターレ)を引退後に同社営業マンとして培った経験からくる。全国の病院を駆け回り、数十億円規模の電子カルテのシステム導入を次々と成約させた。
「やり手」の指導にクラブ関係者は「営業提案とミーティングは同じ。選手の心をうまくつかむ」と太鼓判を押し、主将のDF大野和成(30)も「頭を整理してくれる。パニックに陥っていたチームを助けてくれた」と感謝する。「みんなが前を向いてくれたおかげ」。浮嶋監督は最後まで選手、スタッフをたたえた。