終息の見えない新型コロナウイルス感染拡大が、スポーツ界にも深刻なダメージをもたらしている。個人経営者らは身を切るような日々を強いられており、KG大和ボクシングジム(大和市)の片渕剛太会長(46)もその一人だ。「人生に一度あるかないかの厳しい状況」と薄氷を踏む思いでジム経営を続けている。
【連載】コロナの衝撃 揺れるスポーツ現場
スポーツ界を活動休止状態に陥れた災いは、ジムの日常も一変させた。
一般向けのフィットネスも手掛ける同ジムでは例年、新年度の4、5月に20~30人が新規加入するという。その“書き入れ時”を直撃し、逆に30人ほど減って現在の会員数は約230人。1日に60~70人が汗を流すジム内はおよそ半分になってしまい、片渕会長は「春は増える時期なんですけどね」と頭を抱える。
感染予防で「密集」「密閉」「密接」を避けるよう指示した政府の要請は、ボクシングジムにとっても無縁ではない。
ジムの入り口では手の消毒、検温を義務づけ、レンタル・グローブの使用を禁止。営業中は窓を開放して換気し、空気殺菌剤も室内各所に設置した。トレーナーはマスクを着用し、選手との間隔を空けて指導するなど予防対策を徹底している。自治体が公表する感染状況情報のチェックにも余念がない。それでもなお、片渕会長に「やれることはやっているけれど、天に任せるしかない」と見えない不安は尽きない。
最も懸念するのは資金繰りという。仮に1カ月の休業を強いられれば、人件費や諸経費を合わせ約150万円の赤字が発生する。蓄えから穴埋めするしかないのだが、小規模で「足腰が弱いジムは2、3カ月も持たないかもしれない」と片渕会長は指摘する。
一度減ってしまった会員を取り戻すのは至難の業だ。急場しのぎで運転資金を借り入れても、損失前を上回る収入を得られる保証はない。ボディーブローのようなダメージで畳まざるを得ないケースが出てくるかもしれない。
万策を尽くしても、ジムを開くことは危険と隣り合わせである。ただ、雇用者を守る経営者として、そして3児の父として「自分にも生活はある。だから(月収入の)7割でいいから政府が補償してくれれば、いつでも休んでもいい」と苦しい胸の内を明かす。
「自分まで暗くならないように」と 選手への気配りを欠かさない。ボクサーにとって、厳しい減量を経て臨む一試合の意味は重たい。4月に予定していた自主興行の試合も延期の末に流れた。無観客の実施なら約500万円の赤字になるため仕切り直し。選手の活躍の場が奪われている。
先行きの見えない状況でも「踏ん張るしかない」とファイティングポーズを取り続けながら、片渕会長はこう付け加えた。「普通でいられた時のありがたみが分かる」