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神奈川新聞と戦争
(141) 1942年 自己否定の化粧品会社

神奈川新聞と戦争 | 神奈川新聞 | 2020年6月14日(日) 05:00

「他人ごとでない!」と呼び掛けた寿屋(左)と「化粧は顔より先づ心」としたレオン洗顔クリームの広告=1942年3月12日付本紙
「他人ごとでない!」と呼び掛けた寿屋(左)と「化粧は顔より先づ心」としたレオン洗顔クリームの広告=1942年3月12日付本紙

 一目散に逃げ出す群衆の絵と「他人(ひと)ごとでない!」の文字。1942年3月12日の本紙に掲載された寿屋(後のサントリー)の広告は、非常時の冷静な行動を呼び掛けるとともに、開戦後の米国人を指して「ひとかど文明人らしく装ふ彼等(かれら)にしてからが、その躾(たしな)みを忘れた」と嘲笑した。

 隣のレオン洗顔クリームの広告も、戦時下の状況を反映している。「化粧は顔より先(ま)づ心」と、自ら存在意義を否定するような文句を大書したのだ。同月4日にも「微笑にまさる化粧なし」と、化粧品は不要であるかのように記した。

 以前説明したように、国民精神総動員運動の下、華美な化粧は「非国民」とされた。40年頃の化粧品メーカーは、「虚飾」を捨てて日本女性が本来持つとされた清楚(せいそ)な「素肌美」を維持せよ、と訴えた。装飾のためでなく、健康のために化粧品を売る苦肉の策だ。

 しかし「微笑にまさる化粧なし」「化粧は顔より先づ心」は、そもそも化粧品の存在を否定しているかに見える。後者は、大書した「-先づ心」の後に、ごくごく小さな活字で「とは言ひ、余りに酷(ひど)いニキビ顔や脂顔でもどうかと思ひます。/せめて、女らしい清楚な素肌美だけはお備へ下さる様…」と付け加えた。

 企業存続のために広告を出し続けながらも、あらゆる対象を「非国民」と見なす検閲や世論におびえるさまが伝わってくる。同時に、戦時下にあっても「女らしい」外観、振る舞いを求められる女性の立場も。

 開戦3カ月、他社の広告も戦時色を増していた。仁丹は「祝満州建国十周年」と題し「今ぞ世紀の建設戦に儼乎(げんこ)[厳か]一体奮迅せん」(42年3月1日)、田辺元三郎商店(現田辺三菱製薬)のビタミン剤「ハリバ」は「一人でも病気で倒れたり、能率の低下を来すことのないよう…先づ栄養充実」(同2日)と「戦争のための健康」を説いた。

 こうした中で、寿屋は一貫して自社製品と無関係、かつ訴求力のある長文を「献納」し続けた。同13日の本紙では「日本一の草履取り」と題し、豊臣秀吉の出世を例に、仕事を問わず国に尽くす意義を訴えた。

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