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【1964東京五輪】〜アーカイブズで振り返る神奈川〜
村長日記(13) 誕生日祝いで大失敗

連載 | 神奈川新聞 | 2020年9月30日(水) 09:00

 1964年の東京五輪。神奈川には相模湖のカヌー選手村と大磯のヨット選手村が設けられた。神奈川新聞では両村長が日々の出来事をつづった「村長日記」が連載された。五輪イヤーの今年、当時の日付に合わせてこの連載を再び掲載します。海外旅行が一般的でなかった時代、世界各国の五輪選手を迎える緊張や戸惑い、喜びなど臨場感あふれる描写から、1964年と違うもの、変わらないものが見えてきます。

 現代の観点では不適切な表現もありますが、1964年当時の表現、表記をそのまま掲載しています。(※)で適宜編注を入れました。

色紙に揮毫(きごう)する松原村長。写真の色紙は選手村のスタッフに贈るものと思われる=1964年10月、相模湖町(現在の相模原市緑区)与瀬

バッジと色紙贈る

相模湖選手村村長・松原五一

 夜来の雨が窓べをぬらし、しめやかな朝を迎えた。きょう(28日)も雨。午前八時、例によって雨の中に国旗掲揚が行なわれた。雨や風にもめげず、毎朝、毎夕この行事のために奉仕してくださるスポーツ少年団員ならびに引率の役員のみなさんに心から感謝を申し上げたい。

 さてきょうは第二陣としてブルガリア選手の入村が予定されている。とくに、女子選手第一号の入村とあって、女子宿舎の職員たちのはりきりようはものすごいくらいだ。十五日の開村、いや村の任務についた八日以来、ただひたすらにこの日のためにと準備を重ねてきただけにそのハッスルする気持ちはわかり過ぎるほどだ。

 午前十一時三十分、監督一人選手三人うち女子一人の入村だ。職員一同とともに玄関に出迎え、歓迎のよろこびを強い握手で伝えた。

 受け入れの業務については二回目でもあるしそれぞれの担当においてとどこおりなく行われたのはなによりだ。とくに最も心配される配室の点についてはなんの申し出もなかったが、それでも一泊したあとのことにでもなるのではないかと取り越し苦労が先に立つ。どうにもこうにもこれが一番頭を痛める問題ではある。

 入村した選手をもてなす一つの方法としてオリンピックバッジと村長自筆による色紙を贈ってはいかがという案を出し、みんなに図ったところそれはよかろうということでさっそく実行に移すこととした。しかも最も効果的な方法としては入村式のプログラムの中にこの贈呈のひとこまをおりこむことに意見が一致したが、すでに入村しているフランス選手に対しては今夜にでもさっそく贈呈しようということで夕食後、クラブにおいて私から色紙をおくり、吉村女子主任がバッジを彼らの胸につけてあげた。案の定とても喜んでくれて「なによりの記念となる」と日本流のおじぎとともに口々に「ありがとう」連発でわれわれとしてもうれしかった。

 色紙は「健闘」の二字を書きこんだものだが通訳によってじゅうぶんわれわれの意のあるところを説明し、真心を伝えてもらうようにしたのはいうまでもない。

 相模湖町の石井教育長さんが急死され、そのお通夜に田中副村長とうかがい午後八時すぎ自室に帰ったが、久しぶりにアコーディオンをいじってみた。習いはじめてまだ二カ月ぐらいしかたっていないのでやっと音が出る程度の稚拙なものだが、当人としてはそれでも結構楽しく、村長という重責からしばし解放されてのんびりしたひとときであった。

 選手の入村が多くなったらばクラブに日本歌曲のうちみんなの親しめるもの、たとえば「赤トンボ」のような曲を大きく書き出しておいて選手のみなさんに覚えてもらい、日本みやげの、それこそ荷物にならないしかも思い出なつかしいみやげものとしてさしあげたいと考えている。そんな時にはヘタでも大いに心臓を強くして伴奏でもできればと勤務先の国際少年少女会館(※松原村長が館長を務めた。その後の神奈川県立篠原台青少年の家)から借用してきたのだがわが相模湖選手村にも他村と同じようにピアノか、せめてオルガン一台ぐらいあったらなアとつくづく思ったものだ。

 ことばはわからなくても、あるいはちがっていても、歌は心を結び合わせ、かよいあわせるもので、ピアノを囲んで各国の選手が合唱するの図が想像され、そうでもなればたくまずとも国際交歓、国際親善の実があげられるであろうにと惜しまれてならない。どこかに、この希望をかなえてくださる篤志家はいないものでしょうか。


選手2人が誕生日

大磯選手村村長・馬飼野正治

 きょうはニュージーランドの入村式。これで五回目になる。入村式の村長のあいさつは流調な日本語であるが、最後に必ずその国のことばで、ありがとうということにしている。英語ではサンクユーベリーマッチ、スペイン語ではムーチャス グラーシアス、ソ連語ではスポシィーボ、イタリア語ではモルテ・グラッチェ、仏語ではメルシボクー、ドイツ語ではダンケ・シェーン。これで五カ国語に通じているとはいえないが知っているとはいえる。

 
 

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