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【1964東京五輪】〜アーカイブズで振り返る神奈川〜
村長日記(2) 準備進むも、募る不安

連載 | 神奈川新聞 | 2020年9月18日(金) 09:00

 1964年の東京五輪。神奈川には相模湖のカヌー選手村と大磯のヨット選手村が設けられた。神奈川新聞では両村長が日々の出来事をつづった「村長日記」が連載された。五輪イヤーの今年、当時の日付に合わせてこの連載を再び掲載します。海外旅行が一般的でなかった時代、世界各国の五輪選手を迎える緊張や戸惑い、喜びなど臨場感あふれる描写から、1964年と違うもの、変わらないものが見えてきます。

 現代の観点では不適切な表現もありますが、1964年当時の表現、表記をそのまま掲載しています。(※)で適宜編注を入れました。

相模湖選手村の女子宿舎。「男子禁制」のゲート工事が進む。完成間もない相模湖ユースホステルが利用された。五輪閉幕後、一般にも開放されたが、1990年代に閉鎖され、現在は神奈川県立相模湖交流センターの駐車場になっている=1964年9月、相模湖町(現在の相模原市緑区)与瀬

不満、誠意で補う

相模湖選手村村長・松原五一

 九月十六日

 霧雨にけむる湖を背に、きのうの余韻を感じながらも静かな朝を迎えた。選手村開村式という大きな肩の荷をおろし、ホッと安心の面持ちの職員が出勤しはじめると静かだった村内に、またもや活気がみなぎってくる。開村式をやってみてあそこがどう、ここがどうということが出て、そんな点の補修やら選手入村についての準備がさらに続けられ、職員の忙しげな足音が狭い事務局内にひびく。職員の足ともなる自動車、バスの交渉に田中清君(総括)が大わらわ。

 このところ忙しさにかまけて足を遠のかせていた女子宿舎に自転車で出かける。右手に光る湖面をながめながら坂道を下ってゆくとき、なんの映画だったかイタリアの監督兼俳優デ・シーカ演ずる老警官が自転車で巡回していくシーンをふと思い出してひとりで笑ってしまった。「村長さん」はこれからもこうやって自転車をかって連絡やらで走り回ることであろうと。女子宿舎は九分どおり準備は整っているが便所とか整備のための詰め所に補修しなければならぬ個所がある。

 主任の吉村さんもあれこれ細かい所に気を配ってくださるがなかなかたいへんだ。公営ユースホステルを改補修したものだけに不満の点が多いがいまとなっては誠意が何よりの支援であり勤務される女子職員の労苦がしのばれる。午前十一時OOC(※オリンピック大会組織委員会)職員の高村君と代々木本村(※選手村本村。旧米軍住宅「ワシントンハウス」が利用され、閉幕後は代々木公園になった)に開村式の報告やら連絡に出かける。大垂水峠の曲がりくねったコースもこれからは数えきれぬほど何回も往復することであろう。途中、自転車選手の高尾宿舎(※八王子選手村の高尾宿舎。高尾ユースホステルが利用された)を見たが、まだ国旗掲揚柱が立っていない。やはり分村としての種々の苦労があるらしいことがしのばれわが身を思う。

 スケールの大きな代々木本村を見てこれの運営のむずかしさは予想以上のものであろうと思われる。しかし規模は小さくとも運営は同じこと。いろいろ勉強して対処しようと思う。


道路工事に冷や汗

大磯選手村村長・馬飼野正治

 大磯の空気は実にうまし。うまいと感じたのも少々余裕ができたからである。きょうはローデシア(※英領南ローデシア。現在のジンバブエ)のアラン・D・バトラー選手と夫人のジョンさんが入村した。品のよい長身のオシドリ選手である。選手たちは七時ごろ起きたのか海浜を散歩している。

大磯選手村と競技会場の江の島ヨットハーバーを結ぶシャトルバスの時刻表=1964年9月、大磯町国府本郷

 グッドモーニング ハウ ア ユーとぶつけると、みんなニコニコしてベリークワィトとくる。まるで外国を旅しているような日日である。江ノ島(※ヨット競技会場)行きの定期選手輸送バスの第一便が九時である。フランス、オーストラリア、ローデシアの選手たちを乗せて村長が試乗した。時速五〇キロ三十分で競技場へ着いた。途中日本名物の道路工事でしばらくストップさせられたのでひやひやした。きょうは村新聞の発行の準備をした。この村が人種、宗教、国境を乗り越えて国際交流の場となるよう外国のみなさんも大いに協力してほしいことを書いた。

 夜八時ごろ数人の選手が横浜、平塚の観光にでかけた。ヨーロッパでは「夜よいつまでも」で夜明けまで楽しむ習慣があるので少々心配だったが、夜明けの一時ごろまでに全部帰着し、終夜勤務の受け付け係りをホッとさせた。あすはベネズエラの選手が入村するという情報がはいっているが何時に何人はいるのかいっさい不明。


相模湖選手村の松原村長(左)、大磯選手村の馬飼野村長

神奈川新聞 1964年9月18日付6面

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