今年は日本に吹奏楽が伝わって150年の節目の年。これを記念した演奏会が10月14日、「日本吹奏楽発祥の地」である本牧山妙香寺(横浜市中区)で開かれる。1869(明治2)年、薩摩藩の「洋楽伝習生」が横浜・本牧に駐留していた英国陸軍の軍楽隊長から同寺で指導を受けたことが、日本の吹奏楽の始まりとされる。同寺は「こうした歴史をぜひ知ってほしい」と呼びかけている。
日本に吹奏楽を伝えたのはジョン・ウィリアム・フェントン。横浜山手・本牧付近に駐屯していた英国陸軍第10連隊第1大隊付軍楽隊の隊長だった。
さかのぼる62年、開国が進むにつれ広がった「攘夷(じょうい)思想」(外国人を排斥し日本を守ろうという思想)を背景に、薩摩藩士が英国商人を殺害した「生麦事件」が発生。これを契機に英国、フランスの軍隊が居留民の護衛のため駐屯した。
一方、生麦事件後、解決と補償を求める英国と薩摩藩の間に「薩英戦争」が勃発したが、その後、両者に交流が生まれた。そして69年、鹿児島湾に停泊中の軍艦で英国海軍軍楽隊の演奏に感銘を受けた薩摩藩当主が、フェントンのもとに選抜した30人の伝習性を派遣し、指導を仰いだ。これが吹奏楽の発祥だという。
伝習生が寄宿した妙香寺は、空海が814年に創立したとされる由緒ある古刹(こさつ)。当時は全国から集まった僧侶が修行するための施設も備えていた。「薩摩藩の貿易出張所が現在の横浜スタジアム付近だとされ、駐留軍は本牧。その中間に位置し、宿泊施設もあったことから、指導の場に選ばれたと考えられる」。同寺寺務の池田昌和さん(37)は説明する。
フェントンは明治政府の洋楽部門の要職に就き、初代の「君が代」の作曲も手掛けた。現在の旋律は、その後に林廣守が作曲したもので、同寺は「君が代」の発祥の地でもある。
吹奏楽の発祥については関東大震災や横浜大空襲で資料がすべて焼失したが、日本吹奏楽指導者協会の尽力で歴史が判明した。同協会は1989年、同寺の境内に記念碑を建立し、90年からは本堂で演奏会を開催してきた。同協会の大澤和幸常務理事(66)は「横浜の地から始まった吹奏楽は、いまや全国に広がり、海外バンドとの交流も生まれた。特に日本の中高生世代は世界的にみてもレベルが高い」と感慨深げに話す。
30回目を迎えることしの演奏会は、吹奏楽の歴史についての講演のほか、明治期に演奏された曲も披露される。演奏会は午後2時からで入場無料。