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2019年4月の紙面から
【ウェブ版解説】あと2人の「本当の主役」

ジャーナリズム時評 | 神奈川新聞 | 2019年5月19日(日) 02:00

 新聞紙面(5月15日付け)や本欄(「公正な選挙報道とは」2019年4月の紙面から)で紹介した2つの主役以外に、実はもうあと2人、「本当の」主役が存在する。〈政党〉と〈市民〉だ。いずれも、候補者の選挙活動の陰に隠れる形ではあったが、政党は四半世紀前の1994年選挙制度改革によって、小選挙区制が主流となるなか、制度上「政治活動」と正式に位置付けられ、もっとも自由度が高いポジションを与えられることになった。

 政党は、選挙期間中であろうとなかろうと、自らの政策を制限なく広報できることになっているからだ(候補者自身の広告と分けるために候補者を使用してはいけない、などの自主ルールがある)。しかもこれらのPR活動は、政党助成金(自民党で約175億円)によって実質的に賄われている場合も多く、その意味では税金が支出されているといえる。その上で、政党で最初に認められたビラ(政策集=マニフェスト)の配布が、候補者個人にも認められるなどの拡張が進んでいる。

 本来、選挙の一番の主役であるべき有権者は、「投票」という形で表現行動をすると考えられてきたこともあって、選挙期間中の表現活動は「規定がない」ことをもって自由が保障されていない、いわば日陰の存在であった。

 従来、選挙期間中の表現活動は、特定の候補者を当選させるための表現行為として選挙運動に含めて考えられていた。それがために、原則禁止とされ、しかも例外は候補者にのみ与えられるものがほぼすべてであったために、市民の表現の自由は選挙期間中、実質「ほぼゼロ」という状態が長く続いていたわけだ。

 それを大きく変えたのがインターネットの登場である。かつては、候補者も含め「規定がない」ことを理由に、ネット上の選挙運動が禁止されていたが、2013年にようやく解禁されることになる。すでにそれまでにも、候補者自身のホームページやブログなどは、選挙期間中は閉鎖しなくてはいけない非現実性が指摘されていたが、ようやく選挙期間中は原則、ネット上では自由に表現活動が可能になったわけだ。

 これは、原則禁止の選挙活動に大きな穴をあけることになった。これに伴い市民も、ネット解禁以降、実質的に独立した表現の自由を限定的に享受できることになる。具体的には、ウエブサイト上やSNSでの自由な発信が可能になったわけだ(似ている電子メールは禁止など、にわかに理解できない内容もある)。ただしこれが、ネット上のデマやフェイクニュースを生むことにもなった。

 そしてもう一つ、ネット解禁がもたらした影響が、報道機関自身の存在価値の低下につながりかねない問題だ。従来、政党は選挙期間中、新聞やテレビに大きな広告を出稿し、有権者に政策をアピールしてきた。しかし、有権者のメディア接触が新聞やテレビといった伝統メディアから、インターネットに移るなかで、テレビCMや新聞全面広告を絶対視しなくなってきているように思われる。

 たとえば自民党は、少し前の衆議院選挙の際に、首相としての実績をアピールするCMを制作し、各放送局で放映しようとしたが、いくつかのチャンネルでは流れることはなかった。その理由は、首相と党総裁の峻別(しゅんべつ)が必要であって、自民党の「政治活動」の広告に、首相の活動が描かれるのは不適切と判断したためとされている。これに対し、自民党はボツになった広告をインターネットで流すという選択肢をとった。

 これが意味するところは、有権者に政治選択のための適切な情報を流すという観点から、メディアが果たしていたチェック機能が効かない状況になったということである。政治家や政党が直接有権者にアピールする手段を得たことは、より多くの情報を直接発信できる点でメリットはあっても、必ずしもその結果、多様で豊かな情報環境が実現するとは限らない。意図的により偏った情報が大量に流れるという可能性もあるということになるからだ。

山田健太(やまだ・けんた 専修大学教授) 専修大学ジャーナリズム学科教授・学科長。専門は言論法、ジャーナリズム研究。日本ペンクラブ専務理事。主著に「沖縄報道」「法とジャーナリズム 第3版」「現代ジャーナリズム事典」(監修)「放送法と権力」「ジャーナリズムの行方」。

 
 

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