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障害者殺傷事件考
時代の正体〈421〉異色トークライブ(上) 天使なんかじゃない

社会 | 神奈川新聞 | 2016年11月25日(金) 12:14

相模原市内で施設運営する渡辺良一さん
相模原市内で施設運営する渡辺良一さん

 「いろいろな考えの人が来ている。だから今日は黙祷(もくとう)はしません。祈りたいなら各自で、という形で」。10月末、渋谷・円山町にあるトークライブハウス「ロフト9渋谷」、こじゃれた雰囲気の中で主催者が語り始めた。津久井やまゆり園(相模原市緑区)で起きた殺傷事件を考える異色のトークイベント。出演した身体障害者や大学教授らの議論は熱を帯び、いま向き合うべき社会の暗部をあぶりだした。主な発言者の主張を紹介する。

 子どものころから足が悪く、松葉づえを使っている。芝居が好きで、若いころはよく芝居に出たりしていた。障害がある人が「障害者役」じゃなくて、普通に社会の中に登場していて、弁護士役でもいいじゃない、犯罪者役でもいいじゃない、って示したくて。

 地域には、当たり前には障害者がいない。「障害者が当たり前にいるのが社会なんだ」って示したかったから、相模原市議を1期務めたこともある。今は愛川町で暮らしているけど、まず松葉づえの人とすれ違わないでしょう、車いすにも。

 「いない」んじゃないんです。みんな家の中に引きこもっている。こういう状況。障害っていうのは、一つの特性で、個性に過ぎない。それは、例えば強い方言でしゃべっているとか、その程度のものだ思う。

 だから、自分の障害をことさらに大きく取り上げるんじゃなくて、こういう障害があるから、こういう暮らしをしている、だから一緒にやっていこうよ-という立ち位置じゃないと、本当はいけないと思う。

 私は障害者のグループホームを運営している。少し考えれば当たり前のことだけれど、実際の障害者って「24時間テレビ」みたいに美しくもなければ、かわいくもない。これが本当のところ。

 周囲にも度々指摘しているけど、障害がある子どもを産んだら、お母さんはもう異常にかわいがって、「うちのかわいいダウンちゃん」「天使ちゃん」「どうしてみんながそれを分かってくれないのか」ってなる。

 専らに「保護されている」。そうなると、最悪、他を排除することにもつながってしまう。実際、中途障害の他の入所者を見下すような利用者家族も出てきている。「精神障害?」「薬物依存?」「“そういう所”に自分の子どもをやることはすごく嫌だ」と。

 障害者とか健常者とかを超えて、違う色眼鏡で物を見ていることになる。そうではなく、自分と共通する部分もあるんだという感覚で見てもらえないのかと。

 施設に来る親御さんは、利用者が70歳を超えても「○○ちゃん」って呼ぶ。90歳の母親が。そうすると、障害者はどこまで行っても「かわいい○○ちゃん」という保護の中でしか生きていけない。これはとても悲しいことだし、その子どもにとっても幸せではないことだと思う。

 「障害がある誰々さん」「松葉づえの誰々さん」とか、そういうふうに一つの個性として考えて、社会を何とか実現することはできないかなあと考えている。

 これから、事件はどんどん風化していくだろう。でも、風化した後に「相模原障害者殺傷事件」って聞いたときの思い出し方がどんな感じなのか。犯罪者個人の問題でなく、彼の背中を押す力が社会になかっただろうか。私たちは考えないとならない。

レッテル貼るのは誰



 「渋谷109」をはじめ最新のファッション店や飲食店がひしめく道玄坂を上り切ると、色街としても知られる円山町が見える。会場の「ロフト9渋谷」はそのど真ん中にある。

 主催の熊篠慶彦さん(46)=川崎市宮前区=は「障害者であることを理由に、この問題をタブー視したり、きれいごとで片付けたりしてほしくない」との強い思いを抱いている。

 熊篠さん自身、生まれつき脳性まひの重度身体障害者。思春期の自慰行為などで苦戦した経験から、障害者の性に関するサポートを行うNPO法人「ノアール」(同区)を12年前に立ち上げ、ボランティアの作業療法士(OT)らとともに障害者支援や自助具製作、研究活動などを続けている。

 約30人の観客はラフな雰囲気で、しかし真剣に議論の行方を追っていた。手の甲まで入れ墨(タトゥー)が入った若い男性の発言が熱を帯びる横で、鮮やかな赤い短髪の女性が熱心に聞き入る。

 終了後の懇親会で、私はタトゥーの男性に話し掛けてみた。米国と日本を行き来する30代のアーティスト。彼にもまた内部障害があり、イベントにやってきたという。

 彼は自らの左腕を指さす。「これは、自分の子どもが生後数週間で突然死したとき、子どもに割り当てられたナンバー(米国版マイナンバー制度のようなもの)を彫ってもらったもの。ずっと一緒にいたかったという気持ちを込めて」。丁寧に意味を説明してくれた。

 相模原の殺傷事件では、容疑者の入れ墨が問題になった。「社会人として入れ墨なんてあり得ない」といった言説も噴き出した。私自身も個人的にはタトゥーを入れたいと思わない。

 しかし、だからといって自分の倫理観と相いれない境遇や文化の者を、よく見つめることもせずに「危険分子」「劣等」として排除する思考回路は、ものすごく危険な気がする。津久井やまゆり園では、たまたま容疑者の標的が障害者だっただけで。

 
 

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