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平和つなぐ 慰霊の日(上)
コロナ禍、でも言わねば 沖縄・追悼式開催地問題

社会 | 神奈川新聞 | 2020年8月1日(土) 11:00

 アジア太平洋戦争末期の沖縄戦で日本軍による組織的戦闘が終わったとされる6月23日の「慰霊の日」。今年も沖縄県主催の沖縄全戦没者追悼式が平和祈念公園(同県糸満市)で執り行われたが、紆余(うよ)曲折があった。県はコロナ禍を理由に当初、会場を例年の石碑「平和の礎」近くの式典広場から、公園内の「国立沖縄戦没者墓苑」に変更すると発表。県民や研究者から「殉国死の追認になりかねない」「追悼式の意味が変わってしまう」と批判が相次ぎ、一転して従来通りの式典広場で開催した。戦後75年、記憶の継承は沖縄に限らぬ深刻な課題だ。歴史認識と死者を悼む在り方という普遍的な問いを投げ掛ける。


石原昌家さん
石原昌家さん

 寝耳に水だった。

 沖縄の本土復帰から48年の記念日となった5月15日、玉城デニー知事が突如、国立墓苑での追悼式開催を明らかにした。コロナ禍に伴う規模の大幅縮小を踏まえた会場変更だった。

 「コロナ対策で規模を縮小したとしても、場所を変える必要は全くない。県の認識不足に驚きました」

 沖縄戦研究の第一人者、沖縄国際大学名誉教授の石原昌家さん(79)=平和学=は一報に触れた際の胸の内を振り返る。

 「国立墓苑は国難に殉じた戦没者の遺骨を祀(まつ)る国家施設。殉国の死生観と結び付いた場所で追悼式を開催すれば、住民の犠牲が『崇高な殉国死』として絡め取られ、凄惨(せいさん)な戦闘に巻き込まれた被害の実相が覆い隠されてしまう。コロナ対策だから仕方がないと行政の決定に異論を唱えないという選択は、ありませんでした」

 行動は早かった。問題意識を共有する研究者や近現代史家、ライターらと、追悼式の在り方を考える県民の会を立ち上げた。共同代表に就き、開催地を巡る県への要請書にはこう綴(つづ)った。

 〈(慰霊の日は)沖縄県民が沖縄戦を振り返り、愚かな戦争を繰り返してはならないと、犠牲者の鎮魂と恒久平和の祈りに包まれる日です。その中心が、1952年から続けられてきた(本土復帰前の)琉球政府・沖縄県主催の追悼式です。(中略)戦後半世紀以上にわたり、県民が集い、祈り、追悼と平和発信を積み重ねてきた歴史的な場所といえます〉

 〈国家の施設である国立墓苑で、沖縄戦犠牲者の追悼式をすることは、国家が引き起こした戦争に巻き込まれて肉親を亡くした県民の感情とは相容(あいい)れないのではないでしょうか。このような違和感を県民が覚える場所ではなく、遺骨も見つからない方も含めて、個人の名前を敵味方なく刻んだ「平和の礎」のそばの、内外に開かれた空間である平和祈念公園広場が適切と考えます〉

いしはら・まさいえ 沖縄国際大学名誉教授。1941年、台湾生まれ。那覇市首里出身。70年から沖縄戦体験者の聞き取りを始める。全戦没者刻銘碑「平和の礎」刻銘検討委員会座長、沖縄県平和祈念資料館監修委員などを歴任。91年に第3次家永教科書裁判で原告側証人として、2010年には沖縄靖国神社合祀取消訴訟で原告側専門家証人として、それぞれ証言。著書に「援護法で知る沖縄戦認識─捏造された『真実』と靖国神社合祀」など。


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 切り立った断崖絶壁が連なる沖縄本島南部の海岸線。平和祈念公園(沖縄県糸満市)は急峻(きゅうしゅん)な崖の上に広がり、敷地内には「摩文仁の丘」が小高くそびえる。

 沖縄戦で日本軍は首里城(那覇市)地下の司令部が陥落してもなお降伏せず、南へと撤退し、摩文仁の丘の地下壕(ごう)を司令部とした。故に一帯は「沖縄戦最後の激戦地」となった。


神奈川県関係者も刻銘されている=沖縄県糸満市
神奈川県関係者も刻銘されている=沖縄県糸満市

 沖縄の日本軍が東京の大本営から課された使命は、米軍の本土上陸を1日でも1時間でも遅らせることだった。本土防衛と国体護持のため、南部にあまたの老若男女が避難していることを知りながらも南下を続け、苛烈な地上戦に巻き込んだ。「生きて虜囚の辱めを受けず」の戦陣訓で支配して投降を許さず、強制集団死を引き起こした。住民をスパイ視して殺害もした。

 1970年以降、証言の聞き取りを重ねてきた沖縄国際大学名誉教授の石原昌家さん(79)=平和学=が語る。

 「『人間の盾』と言うでしょう。日本軍は住民を人間の盾にしながら、米軍の掃討戦を長引かせました。司令部が置かれた摩文仁の丘は、住民に甚大な犠牲を強いた象徴的な場所です。地元では信仰の対象でもあったようですが、忌まわしき場所へと一変させられました」

 
 

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