2019年10月、首都圏を縦断し、関東や東北に記録的な大雨をもたらした台風19号。水害に遭った経験が少ない大都市の住民は困惑し、被災から8カ月以上が過ぎた今も不安を抱えたまま生活する。梅雨に入り、水害のリスクが高まる時期を再び迎える中、人々は何を思うのか―。(渡辺渉、鈴木崇宏)
にぎわいの片隅で…
マスク姿の男女がジョギングを楽しみ、若者が軽快に自転車のペダルをこぐ。新型コロナウイルス特措法に基づく緊急事態宣言が解除された5月下旬、川崎市高津区のサイクリングロードには、穏やかな日差しが降り注いでいた。
対岸に望むのは、買い物客のにぎわいが戻り始めた東急線二子玉川駅。足元を静かに流れる多摩川の河川敷に目を移すと、小さな看板が立っていた。「河道管理上必要な箇所の土砂撤去を実施いたします」。水辺では、2台の重機がうなりを上げていた。
19年10月12日に上陸した台風19号で濁流と化した多摩川と、支流・平瀬川との合流点。中州のような場所で重機が取り除いていたのは、あの日の豪雨で多摩川の上流から押し流されてきた土砂だった。
「本気で洪水を起こさないつもりで取り組んでいるのだろうか」。平瀬川沿いに構える工場が浸水した「日康金属製作所」常務の青山岳史さん(50)は首をかしげる。土砂の撤去のような目に見える対策が、梅雨入りを前にようやく動きだしたからだ。
「工場も大切だが、命を守れるかどうか心配だ」。二つの川に挟まれ、標高の低いこの一帯でなりわいを続けていくことに、青山さんは不安を拭えずにいた。
「逆流で氾濫、避難後に」
氾濫の要因は、排水管の逆流によってタワーマンションなどが浸水した武蔵小杉駅(川崎市中原区)周辺とは異なる。