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定着支援問われる企業力 精神障害者の雇用義務化

社会 | 神奈川新聞 | 2018年3月13日(火) 13:03

精神障害者の就労定着支援をテーマに講演する眞保さん=2月23日、横浜市西区のビジョンセンター横浜
精神障害者の就労定着支援をテーマに講演する眞保さん=2月23日、横浜市西区のビジョンセンター横浜

精神障害者の就労定着支援をテーマに講演する眞保さん=2月23日、横浜市西区のビジョンセンター横浜
精神障害者の就労定着支援をテーマに講演する眞保さん=2月23日、横浜市西区のビジョンセンター横浜

 障害者雇用促進法の改正に伴い、4月から精神障害者の雇用が義務化される。「企業には職場定着への支援力が今まで以上に求められる」-。横浜市内で開かれた「NPO法人かながわ精神障害者就労支援事業所の会」などが主催の研修会で、法政大学の眞保智子教授は、働きやすい職場環境の整備や働き続けるためのサポートの重要性を強調。障害者が地域の企業でともに働くことが当たり前な社会の実現を訴えた。

 基調講演を行った眞保さんは、厚生労働省が設置する「今後の障害者雇用促進制度の在り方に関する研究会」メンバーでもある。眞保さんによると、同制度は障害者を「経済社会を構成する労働者の一員」と位置付け、「職業生活においてその能力を発揮する機会を与えられるもの」としている。

 同省の統計によると、2016年6月1日現在、民間企業で働く障害者は全国で約47万4千人。内訳は身体障害者約32万8千人、知的障害者約10万5千人、精神障害者約4万2千人となっており、雇用者数は13年連続で過去最多を更新した。眞保さんは「この10年、(雇用の)量的拡大を達成したことは間違いない」と評価する。

     

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 こうした中、4月から精神障害者の雇用が義務化されるのと同時に、法定雇用率が引き上げられる。

 法定雇用率は、労働者のうち一定の割合以上の障害者雇用を義務づけたもので、民間企業は2%から2・2%に、国・地方公共団体は2・3%から2・5%に、都道府県などの教育委員会は2・2%から2・4%となる。従来、身体障害者と知的障害者のみだった法定雇用率の算定対象に、精神障害者も追加される(精神障害者保健福祉手帳の所持者に限る)。

 従業員のカウントの仕方も変わる。法定雇用率は原則として週30時間以上働く障害者を1人、週20時間以上30時間未満の障害者を0・5人と算定するが、4月からは精神に限り、雇用開始や手帳取得から3年以内で、23年3月末までに雇い入れられた者は、週20時間以上30時間未満の場合も1人とカウントされる。

 併せて、障害者を雇用しなければならない民間の事業主の範囲が、従来の「従業員50人以上」から「45・5人以上」に変更される。

 「(企業にとって)これまで雇いづらかった(短時間労働の)人たちが、たくさん雇用されることになる。これまで以上に定着支援の力が問われる」と眞保さん。大企業が大量採用して雇用率を維持するのではなく、「地域の企業で、障害者も一緒に働くのが当たり前」な社会が望ましいと訴えた。

     

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 一方、同省の障害者雇用実態調査(13年度)によると、平均勤続年数は身体障害者が10年、知的障害者が7年9カ月であるのに対し、精神障害者は4年3カ月と短い傾向にあるのが実態だ。辞める理由として、仕事内容や賃金といった労働条件への不満のほか、職場の雰囲気や人間関係、体力面などを挙げるケースが多い。

 職場定着は社会的な課題だが、眞保さんは企業へのヒアリングの中で、精神障害者雇用に対する不安の声を多く聞くという。

 「問題は社会の根強い偏見」。病院に行くのをためらい、症状が悪化することもある。手帳を取得したとして、それを職場に報告できる雰囲気がなければ、退職していく人がいるかもしれない。「障害者に限らず、従業員が生き生きと働ける環境をどうつくっていくか」。その視点こそが重要だ。

 また、キャリア形成という観点でみた場合、同じ仕事をずっと続けることが本当に良いのか。「別の仕事に挑戦する機会を与えることも雇用の質を担保するという意味での定着支援だ」

 精神障害者の場合、働き出してから病気になることもあり、知的障害者らとは異なる雇用管理の在り方や、本人の仕事能力、処遇を徐々に上げていく仕組みが求められると強調した。


研修会 復職への活用事例も紹介
日報システム「SPIS」


 研修会では、精神障害者の職場定着支援システム「SPIS(エスピス)」の紹介と、SPISを活用して求職者への復職支援に取り組む企業の事例報告も行われた。

 SPISは、ウェブを使った日報システム。当事者が日々、体調や精神面の状態を簡単なフォームの日報に入力する。

 仕事面や生活面などの視点から評価項目を設定。「朝までぐっすり眠れた」「ミスがないか確認できた」など各自で項目を設定でき、「良い」「悪い」を4段階で自己評価する。自由に記載できるコメント欄もある。

 日々の評価点はグラフ表示し、身体や精神面の好不調を「見える化」。データはクラウド上に蓄積され、当事者と職場担当者、外部支援者の三者がリアルタイムで共有できる。顔を合わせての対話が苦手な人も、コミュニケーションや信頼関係の構築といった効果が期待できるという。

 開発したのは、大阪のシステム会社だ。精神障害者の雇用を進める中、長く働き続けられるシステムを手掛けたいと当事者自身が考えた。

 普及に努める一般社団法人SPIS研究所(東京都渋谷区)によると、2012年の提供開始以来、全国で約100の事業者で約200人が活用。精神障害者の就労1年後の就労率が4割程度であるのに対し、SPIS利用開始1年後は9割超の実績という。希望する企業には、相談員による支援も行っている。「当事者が他者とつながる(のが特徴)。決して一人にはさせない」。同研究所の宮木孝幸理事は強調する。

 SPISを使って休職者の復職支援に取り組んでいるのは放送・医療用製品の修理などを手掛けるテクノイケガミ(川崎市川崎区)。蒲谷幸利取締役によると、休職中のある男性は「1日3食、食べたか」などのセルフチェック項目を設定。当初なかなか入力されなかったが、「チェックを入れるだけでも良い」などと伝えたところ、徐々に入力回数が増えた。

 入力が途絶えた時期があり、本人に確認すると家族に関する悩みを抱えていた。蒲谷さんが助言すると、状態は落ち着いていったという。また、男性は仕事をしている際、腹痛や頭痛を訴えることが多かったが、SPISを続ける中で、急いで朝食を食べることや睡眠時間の短さが関連しているらしいことも分かった。

 休職中でも本人の状態が把握できるSPIS。最近は高評価をつける項目が出てきたといい、蒲谷さんは男性の復職に向け、手応えをつかむ。「何とか復職させたい。縁があって雇用した以上、できるだけ退職させたくない」

 
 

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