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時代の正体〈400〉障害者殺傷事件考(下)成果主義が落とす影

社会 | 神奈川新聞 | 2016年10月3日(月) 10:45

障害者施設の現状を語る斎藤さん=9月28日、参院議員会館
障害者施設の現状を語る斎藤さん=9月28日、参院議員会館

 さいたま市でグループホームなどを運営する社会福祉法人鴻沼福祉会常務理事の斎藤なを子さんは相模原の障害者施設殺傷事件の容疑者が元職員であったことにわななき、一方で思い巡らす。障害者支援に関する制度や政策に事件の遠因があるのではないか、つまり普遍的な問題をこの国は抱えているのではないか、と。


障害者施設の現状を語る斎藤さん=9月28日、参院議員会館
障害者施設の現状を語る斎藤さん=9月28日、参院議員会館

 障害のある仲間の多くはこの事件に怖い、怖くてたまらないと一呼吸置いてやっと口にしたり、みんなと話がしたいと言ったりしている。一方、毎朝真っ先に「きのうのニュースは何々だったよ」と職員に話す人が事件にまったく触れなかったり、事件を知っているはずなのに、さりげなく水を向けても「分からない」としか言葉にしない人もいる。

 精神科入院歴のある人や生活保護を利用されている人たちは、自分たちが社会からどう見られているのだろうかと不安を漏らしています。事件について触れたくない、心にふたをしてしまっている状態で、障害のある人たちが事件から受けたショックの大きさ、傷の大きさを日々強く感じています。

 私自身も障害のある人が殺戮(さつりく)のターゲットにされ、障害者はいなくなればいいという考えのもと、支援する立場にあった者の手によって実行に移されたという現実に戦慄(せんりつ)を覚えました。

 すぐによみがえってきたのは昨年7月に訪れた、ナチスドイツ下でT4作戦が行われたハダマー施設で受けた衝撃です。

 NHKスタッフと日本障害者協議会の藤井克徳代表の現地取材に同行したものです。ハダマーは6カ所あった障害者専用殺戮施設のうち、当時の状態を現存する唯一のところです。シャワー室と見せかけた地下のガス室に続く17段の階段に立ったとき、どんなに障害の重い人でもその異様でただならぬ雰囲気を容易に察することはできただろうと感じました。わずか12平方メートルに50人が押し込められたガス室で一人一人が一体どんな状態で最期を迎えたのかを思うと胸が苦しく、言葉になりませんでした。

 多くの医師や看護師、介護士たちがこの殺戮行為に加担し、次第にエスカレートしていったことも衝撃でした。T4作戦のもとでは、生きるに値しない命はあざけりの対象になるよりは、その命に終止符を打つことの方が人間の慈悲にかなうという考え方がありました。人間を障害のあるなしや人権などを基準にして優劣をつけ、障害のある人をコストのかかる社会のお荷物として見下しています。

 今回の事件がこうした考え方と相通じていること、そこにしっかりと目を向けていかなければならないと思います。

存在する不安



 そしてT4作戦から70年以上もたった日本でなぜこのような事件が引き起こされてしまったのか、決して特異な事件であるというだけでは済まされない、根深い問題が横たわっていると思います。

 この間、この事件をどう受け止めたか、どう向き合っていけばよいか、いろんな人たちと話し合ってきました。障害者支援の介護、看護に携わっている人たちの中にあっても、容疑者の気持ちが分からなくもない、似たようなことがほかでもまた起こりえるのではないか、うちは100パーセント大丈夫と言える自信がないという不安な気持ちが少なからずある、ということが率直な事実です。

 現場にこのような不安感をもたらす背景には、制度の問題が大きくあると思っています。若い施設職員から、利用者のAさんが休むときょうの作業がはかどらなくて困ったなと思うけれど、Bさんが休んでもそうは感じなくなっているという発言がありました。大型の台風で施設を臨時休業せざるを得なくなり、これで何十万円の施設の減収かとつい思ってしまうという施設長さんも多くいます。

 工賃向上や就職率を上げることが至上命令として優先され、利用者を生産性の観点から捉えてしまうことが、知らず知らずのうちに若い職員に染みついていってしまう。施設長は利用者の安全とお金を一瞬でもてんびんにかけてしまう。そのおおもとには、目標工賃の達成や就職率を上げなければ加算が取れなかったり、日払い方式などの成果主義に基づく報酬制度になっていたりするという問題があると思います。

制度のひずみ


 この10年間ほどで障害者施設事業所では非正規職員や非常勤職員の比率が一気に高まり、常態化しました。1人の職員を0・5人分、0・3人分とカウントし、合わせて1人とみなすという常勤換算制度によってです。このような効率的な発想のもとでは、職員が孤立せずにお互い高めあいながら専門性や経験を培っていくことなどとても困難です。

 障害のある人への支援に関する制度や政策の考え方の基調に生産性や効率性が重視されている。成果主義や競争原理がベースになっている。こうしたことが土壌になって、今回の事件を通じて現場から出されている不安感とつながっているのだと思います。そして制度そのものが障害のある人への支援を軽んじ、見下しているように思えてなりません。

 今回の事件の影響として懸念されることを二つ申し上げます。一つは、

 
 

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