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障害者就労支援施設長 上原陽子
【ひとすじ】共生社会目指して ドッグカフェ「のあのあ」 

社会 | 神奈川新聞 | 2016年9月28日(水) 14:48

上原さん(左)に見守られながらカレーを食べる佑さん=横浜市金沢区のドッグカフェ「のあのあ」
上原さん(左)に見守られながらカレーを食べる佑さん=横浜市金沢区のドッグカフェ「のあのあ」

 横浜市金沢区釜利谷東に8月、「のあのあ」という名のドッグカフェがオープンした。一般企業への就職が難しい障害者に雇用の場を提供する「就労継続支援B型」。作業所も併設し、カフェでの接客や調理補助のほか、ものづくりの仕事も用意する。施設長の上原陽子さん(60)はダウン症の息子の母親でもあり、「障害者が地域の中で当たり前に働ける社会」の実現を目指し、日々、奮闘中だ。

 「いらっしゃい、元気にしてた?」

 9月21日、貸し切りとなった「のあのあ」に団体客が訪れると、スタッフが温かく迎え入れた。

 団体客とは、社会福祉法人すみなす会が運営する「手織り工房コパン」を利用する知的障害者と職員の計約20人だ。ごく近くにある施設とあって、月に1度、ランチを食べにやって来る。

 この日のメニューはカツカレー、サラダ、リンゴ。はさみで具を細かく刻むなど職員にサポートされながら、障害者らは、つかの間の外食を楽しんだ。上原さんの犬に触れ、笑顔を見せる。「大勢で外食をするのはなかなか難しいので、こうした機会は本当にありがたい」と、コパンのサービス管理責任者西川智久さん(38)は言う。

 客の中に、上原さんの長男・佑さん(29)の姿があった。入所施設で生活し、日中はコパンで機織り作業に励む。

 「あっという間に食べちゃったね。佑くん、カツカレー好きだものね」。母の言葉に、佑さんは満面の笑みを浮かべた。

 音楽が大好きという佑さん。上原さんが記者に、最近のお気に入りの歌手を教えようとして名前を思い出せずにいると、佑さんがテーブルに指で「ナ」と書いた。「そうそう! ナオト・インティライミね!」と上原さん。佑さんは、うれしそうにゆっくりうなずいた。

□ ■ □

 1986年11月1日。長時間に及ぶお産の末、佑さんは誕生した。だが、泣き声もない。ゆっくり対面する機会を与えられぬまま、小児科で預かると告げられた。

 隣の分娩(ぶんべん)台で出産した女性には、みんなが「おめでとうございます」と言っているのに、上原さんは誰からも祝福の言葉を掛けられない。周囲には常に看護師がいて、まるで監視されているかのよう。「何となく嫌な予感がした」

 予感は的中した。後日、生まれた子どもはダウン症だと医師に宣告された。「私の前には医師や看護師がずらっと並んで…。暴れたり、泣き叫んだりするとでも思ったのでしょうね」

 幼稚園教諭として、ダウン症の幼児と日常的に接していたこともあり、医師らの予想に反し、泣くこともなく淡々と聞き入れた。

 しかし、退院後、母親の友人から言われた一言が、ずしりと胸に響く。「世の中に生まれてきたら、どんなことがあっても『おめでとう』だよね」

 それまで張り詰めていた気持ちがぷつんと切れ、涙が止まらなくなった。

 上原さんは振り返る。「今思えば不思議なほど、『子どもが』ではなく、ちゃんとした子どもを産めなかった『私が』かわいそう、という気持ちが強かった」

 
 

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