【時代の正体取材班=田崎 基】鷹揚(おうよう)に構えた語りの中に、強い危機感と憤怒をにじませ、保守きってのハト派は痛烈に安倍政治への不満を打ち明けた。今年80歳を迎えた元衆院議長の河野洋平氏が日本記者クラブで語ったのは9月20日。北朝鮮がミサイル実験を繰り返す中、安倍首相は臨時国会の冒頭解散に打って出た。1時間にわたる講演は日中関係に始まり、緊迫する北朝鮮情勢、そして暴挙とも言える衆院解散にまで及んだ。
〈自民党総裁や外相も務めアジア外交に力を入れてきた河野氏は9月8日、日中国交正常化45周年を祝う記念式典に招かれた。その直前、北朝鮮が6回目の核実験を行った。北に対するさまざまな意見が紛糾する中での訪中だった〉
北朝鮮がミサイルを撃つ。核実験をする。けしからん。国際社会への挑戦だ。暴挙だ。北朝鮮をやっつけないといかん。制裁しないといかん、という話になる。そして次に中国が真面目に制裁しないからだめなのだ、となる。中国の方は「国連決議はちゃんと守ります。しかし問題解決は話し合いでやらないとだめですよね」と言う。
しかし、それに対して聞く耳を持たない。相変わらずミサイルを飛ばせば、北はけしからん、中国が…と繰り返す。一つの形ができていて、そのパターンがぐるぐる回っている。
「日中韓」基軸に
このやりとりが続く限り問題は解決しない。もう一度、よく考えなければいけない。一番真剣に考えなければいけないのは中国、韓国、日本だ。北朝鮮に何かあった場合、この周辺国が最も被害を受ける。その一方で問題解決で一番安心できるのはわれわれだ。つまり日中韓が一体となり、北を説得しなければだめだ。
現状は「韓国は簡単には動けない。だから代わりに米国がやってくれているんだ」と言う。確かに米国は大きな力を持っている。だから圧力をかける。しかし最終的に北を説得し切る、抑え込むことは米国だけではできない。いまやそのことがはっきりしてきた。
ではどうするか。
米中が北の将来について
しっかり考えるほかない。そのためには日中韓がもっと密接にひと固まりになって話し合い、北東アジアの将来について考える状況が必要だ。
ところが何かというと「日米韓」となる。中国は蚊帳の外。うまくいかないと「中国も一緒にやってくれ」と言い出す。
北の最大貿易相手は中国だ。米国がいくら経済制裁をやると言っても、結局は中国がどうするかが決め手になる。にもかかわらず、中国と一緒になって経済制裁の計画を作らない。
うまくいくはずがない。誰が考えても北を説得し、抑え込むのは中国が一番強いのだから。日中韓それぞれの関係がしっかり話し合える体制にない。そこが北につけ込まれる理由の一つになっている。この3カ国は日頃からもっと緊密な連携を取るべきで、そのための政治的努力が足りない。
いま安倍首相は北に対する制裁に非常に熱心だ。とても威勢がいいが、もっと丁寧な説明が必要だろう。
制裁は外交的解決策を導き出すための方法であってそれ自体が目的ではない。制裁によって問題が解決するのではなく、問題は話し合いによって解決される。
その先に北東アジアの安定や非核化があり、世界の安心がある。そして核の廃棄を進めることができる。
中国は10月に共産党大会が行われ新しい体制となる。米国はその際、中国と北について話し合うと言ってほしい。その仲立ちを日本が積極的にやるべきだ。