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【K-Person】阿部佳さん
気持ちを先読みし どんなドアも開ける

K-Person 神奈川新聞  2017年03月12日 13:14

阿部佳さん
阿部佳さん

阿部佳さん

 劇場のチケットやレストランの予約など、客の相談に応じて手配してくれるコンシェルジュ。近著「コンシェルジュの仕事道」=写真=で、「相手の気持ちを読んで行動するプロ」としてのコンシェルジュの在り方を、四半世紀にわたる豊富な経験をもとに語っている。

 1972年、中学1年生のとき、父の海外出張に家族で同行した欧州のホテルで、初めてコンシェルジュに出会った。「この人に頼めば大丈夫」という安心感を醸し出す老紳士は「今日は何をしようか」と相談すると、「今日は美術館に行ってみたら?」と、その日の気分にぴったりの場所を勧めてくれた。

 「人の気持ちを先読みしてぴたりと当ててくる。不思議な仕事だなと思った。まさか自分がその仕事に就くなんて」


「コンシェルジュの仕事道」表紙
「コンシェルジュの仕事道」表紙

 ヨコハマグランドインターコンチネンタルホテル(横浜市西区)で、コンシェルジュとして働き始めた頃、日本ではまだ職業として周知されていなかった。

 「ホテルに来るお客さまには説明できても、外の人には知ってもらうのが難しい。お客さまの要望に対して共に助け合える人ではなく『無理難題ばかり言ってくる人』と思われていたかもしれない」

 知ってもらうために自ら出向き、話をした。「横浜は文化や歴史ある町で誇りがある。新しいものに対しては、どこまでやれるかやってごらん、と距離を置くが関心を持ってくれる優しさもあった」

 まめに足を運んでいると、老舗の店主や商店会などが「頑張っているな」と次第に認めてくれるようになった。人と人とのネットワークができたことで、情報も手に入りやすく、活動しやすくなった。「誠意をもって人と接することで築いていく仕事なんだと学んだ」

 現在はグランド ハイアット 東京(東京都港区)で7人のチームを率いる。制服に輝く襟章は交差した金の鍵。コンシェルジュの国際組織「レ・クレドール」の会員が着けるもので、「旅行者のためにどんなドアも開けて差しあげましょう」との意味が込められている。

 「何がしたいのか、相談した本人も分かっていないときがある。それがぴったりはまって、かちっと音がする瞬間がある。そんなときはうれしいですね」

お気に入り

 大学で接する学生たちが気に掛かっている。「外国人が駅で困っているのを見かけても9割近くは声を掛けないと言うんです。では、自分が反対の立場で、声を掛けてもらえたら? と聞くとうれしいと。人に何かをしてあげて喜ばれる体験が少ないのかも」。その結果、人に興味を持てなくなる。そういう体験をさせてこなかった大人が悪いという。「このままいくと、日本怖いよねと思います」

あべ・けい コンシェルジュ。1959年東京都出身。神奈川県在住。82年慶応大卒。パルコ、幼児開発協会(現・ソニー教育財団)勤務を経て、92年ヨコハマグランドインターコンチネンタルホテルにコンシェルジュとして入社。93年同ホテルのヘッドコンシェルジュに就任。97年「レ・クレドール」の正会員となる。2002年グランド ハイアット 東京のチーフコンシェルジュに就任。15年明海大ホスピタリティ・ツーリズム学部教授を兼務。著書に「わたしはコンシェルジュ」(講談社)、「お客様の“気持ち”を読みとく仕事コンシェルジュ」(秀和システム)など。近著に「コンシェルジュの仕事道」(清流出版)。

記者の一言
 NHKの番組で拝見して以来、気になっていた阿部さん。すっと伸びた姿勢、きびきびしているけれども雑にならないしぐさ。穏やかな話しぶりの中にも自信があふれる。かっこいい!

 横浜時代のエピソードで、「山手の外国人墓地の門柱に書いてあるのは何?」とお客さまに聞かれたそうだ。言われてみれば何か書いてあったような。気になったので近くまで取材に行った折、訪ねてみた。記憶にあるよりだいぶん長い文章で、1968年に門碑を建てた際の記念文と、18世紀英国の詩人トーマス・グレーの詩「田舎の墓地で詠んだ挽歌(ばんか)」から引用された一節だった。わざわざ足を運ばなくても今ならネットで検索できる。でも阿部さんもこうして確認したのだろうな、と実感できた。


阿部佳さん
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