1. ホーム
  2. K-Person
  3. 記憶の明暗描く 横浜で舞台作披露

【K-Person】アピチャッポンさん
記憶の明暗描く 横浜で舞台作披露

K-Person 神奈川新聞  2017年02月12日 13:39

アピチャッポン・ウィーラセタクンさん
アピチャッポン・ウィーラセタクンさん

アピチャッポン・ウィーラセタクンさん

 タイ映画「ブンミおじさんの森」で、2010年カンヌ国際映画祭最高賞(パルムドール)を受賞。映画監督のほか、現代美術家としても活躍し、昨年から今年にかけ、横浜美術館や東京都写真美術館で相次いで作品展が企画されるなど、日本でも熱心なファンが多い。

 「自分が映画に興味を持ったのは記憶力が弱いから」。人や場所の名前を記憶するのが幼い頃から苦手だったと言い、「日記の延長で記録するという面から映画製作に興味を持ちました」と語る。

 自身の映画やアート作品では、しばしば「亡霊」や「記憶」をテーマにしてきた。「亡霊とは、すごく広いものを指します。見えなくて悪さをするもの。さいなまれてどうしても消えない記憶も亡霊と言うことができる」


Courtesy of Kick the Machine Films_feverroom
Courtesy of Kick the Machine Films_feverroom

 タイの農村を舞台にした「ブンミおじさんの森」では、腎臓病を患い、死期を悟った主人公のもとに亡き愛妻や猿の精霊となった息子が突如、姿を現す。家族だんらんを楽しむ一方、共産主義をめぐる戦いで森に逃れた兵士たちを殺害した過去の苦い記憶も脳裏に浮かんでくる。

 「美しいものと残酷さがまじっているのが人生。歴史の暗部を描くことも自分の取り組みたいことの一つ」と語る。

 経済が右肩上がりに発展し、“ほほ笑みの国”と呼ばれるタイだが、軍事政権の下、民衆の本音は抑圧されがちだ。映画製作にも、慎重にならざるを得ない。「自分が生きている間に自由が実現されることは多分ないと思うけれど、だからといって自分の人生が不幸せとは思わない」「タイを描くことが自分の仕事」

 タイの民主化のために「自分に何ができるのか」。その答えが、映画を作り続ける動機にもなっている。

 19日まで開催されている「国際舞台芸術ミーティング in 横浜 2017」では、おととし、韓国の劇場から依頼されて制作した自身初の舞台作品「フィーバー・ルーム」を日本初披露。光や煙、映像を織り交ぜ、自身の映画やアート作品に出てくるような幻想的な空間を劇場に再現した。

 「過去に製作した映画ともジグソーパズルのようにつながる舞台。ぜひ、劇場で体験して作品を楽しんでほしいです」

お気に入り

 タイ料理といえば、唐辛子や香辛料のきいた辛い食べ物だが、辛い食べ物は苦手。最近はまっている食べ物は、アボカド。「メキシコで食べて好きになった」という。

 タイ東北部のコーンケンで育ったが、活動拠点は、北部のチェンマイ。「アーティストや、観客など居心地の良いコミュニティーが存在する場所。気候も穏やかなチェンマイ。10年住んでいます」

アピチャッポン・ウィーラセタクン 映画監督、現代美術家。1970年、タイ・バンコク生まれ。同国チェンマイ在住。コーンケン大学で建築を学び、シカゴ美術館付属シカゴ美術学校で映画製作を学ぶ。長編映画「ブンミおじさんの森」で2010年カンヌ国際映画祭最高賞(パルムドール)受賞。映画監督として活躍する一方、1998年以降、現代美術家としても活躍。舞台作品「フィーバー・ルーム」は、横浜市中区のKAAT神奈川芸術劇場ホールで上演中(15日まで)。問い合わせは、チケットかながわ電話(0570)015415。

記者の一言
 「タイを描くことが僕の仕事」と話すアピチャッポン監督。最近は、タイの監獄についても興味があるという。「釈放された政治犯と話す機会があって、彼からタイの監獄の話を聞いたけれど、60年前の出来事かと思うくらいひどい話だった」「いろいろな人と出会って話を聞くことで、タイという国の見方がどんどん広がって、変わっていく。それを描くという映画監督の仕事は、終わりがない」。穏やかな語り口だが、言葉の端々から強い信念が伝わってきた。

 そんな監督が「トランプ大統領どころではない」と話すのが、タイの軍事政権だ。「政府が銃を持つことによって国が安定するという考え方はおかしい」。今後も、どんな作品を描くのか、注目し続けたい。


アピチャッポン・ウィーラセタクンさん
アピチャッポン・ウィーラセタクンさん

アピチャッポン・ウィーラセタクンさん
アピチャッポン・ウィーラセタクンさん

アピチャッポン・ウィーラセタクンさん
アピチャッポン・ウィーラセタクンさん

シェアする