英国南西部の田舎町。1時間に1、2本しか来ないバスの待合所で、秋山智洋(34)は老齢の紳士と親しくなった。留学期間が終わる頃、思い出づくりにと誘いを受けた。
「この町で最高のレストランに連れて行くよ」
向かった先は古びた彼の自宅だった。慣れない手つきで振る舞われたのは、国民料理のフィッシュアンドチップス。背伸びしない「おもてなし」は新鮮で、異国からの来訪者には心地よかった。
帰り際に声を掛けられた。「地球の裏側に住む君と過ごした時間は格別だったよ」。満足げな笑みが印象に刻まれた。
「これだ」。アイデアがひらめいた。
訪日外国人客が立ち寄るスポットに狙いを定め、仕事終わりに通い詰めた。片っ端から声を掛けたアンケートは、3年間で1036人を数えた。
浮かんだのは「日常体験」を求める訪日客の多さだった。「これをシニアの『生きがい』と結び付ければビジネスになる」。確信を得た。