2020春季キャンプ
オースティン「あの日が自分を強くした」 優しき助っ人
ベイスターズ | 神奈川新聞 | 2020年2月11日(火) 22:03
「NEW GENERATION IS HERE.」。新たなチームスローガンが映し出されたバックスクリーンに打球が突き刺さる。新外国人のオースティンがフリー打撃で柵越えを連発。米大リーグ通算33本塁打の右の大砲がついにベールを脱いだ。
「ホームラン? あまり考えていなかったよ。強くたたくことだけを意識していた」と涼しい顔だ。レイズに移籍した筒香の代役として期待され、田代チーフ打撃コーチも「スイングスピードが速く、ライト方向を含めて広角に捉えられているのが良いな」とうなずいた。
メジャーデビューした2016年。名門ヤンキースで初打席初安打がホームランという快挙を成し遂げ、田中将大の勝ち星にも貢献した。とはいえ、当時から考え方は変わらない。
「ホームランを打つことはクールかもしれない。だけどチームが勝てなきゃ面白くない」。勝利だけを貪欲に求めるのには、ベースボールをやめそうになった過去が大きく影響していた。
告げられた日は絶望
米国の南東部、ジョージア州で生まれ育った。祖父や父の影響で野球を始め、1歳ずつ離れた3兄弟の長男として、地元の公立高校からプロを夢見ていた17歳の夏のことだ。当時、州で1番の強打者との評価を受けていたオースティンを襲ったのは、経験したことのない激痛だった。
駆け込んだ病院で医師から伝えられたのは「精巣がん」。
幸い早期発見で大事には至らなかったが、「告げられた瞬間は本当に絶望な気持ちに陥った。思い出したくもない」。
紆余(うよ)曲折を経て最終学年で結果を残したスラッガーは、10年にドラフト13巡目でヤンキースから指名を受けた。「あの日のことが自分を強くした。人との関係や一日一日を大切に思うようになった」
日本でトライしたい
ヤンキースを皮切りにメジャー4球団を渡り歩いた。周囲はまだビッグリーグでプレーできると後押しもしてくれたが、ベイスターズからのオファーを受け入れた。
「ベストの選択肢といえるかは今は分からないけど、何事も全力で取り組みたい。日本のレベルは高く、選手間の競争も激しいと聞いた。トライしたい気持ちが沸き上がった」
キャンプ中は子どもたちへのファンサービスを心掛け、気さくに写真撮影にも応じる。「未来の野球選手に、貴重な機会を用意するのはアスリートとしての行動さ」。心優しき助っ人なのだ。
対外試合がスタートする第3クール。4番候補に挙がる背番号23は、「もう準備はできている。あとは任された仕事をしっかり果たすだけだよ」と大きく笑った。
22年ぶりのリーグ制覇へ、キーマンはここにいる。
タイラー・オースティン 内野手。長打が魅力で、複数のポジションを守れるユーティリティー性も兼ね備える。昨季はブルワーズでプレーするなどメジャー4年間で209試合出場114安打。米国出身。背番号23。188センチ、100キロ。右投げ右打ち。28歳。