1950年代からニューヨークでファッション写真家として活躍したが、80年代に表舞台から姿を消した写真家ソール・ライター(1923~2013年)。2006年に出版された写真集が注目を浴び、80歳を超えて第2のデビューを果たした。そんなライターの未発表写真や絵画など約200点を紹介する回顧展「永遠のソール・ライター」が、東京・渋谷のBunkamuraザ・ミュージアムで開催中だ。
ライターの写真の魅力は大胆な構図や鮮やかな色にある。画面の手前や半分を遮蔽(しゃへい)物で隠した構図は、残りの部分に写る人物や事物に視線を集中させ、色を印象的に見せる効果がある。
生前からアシスタントを務めたマーギット・アーブは「元々画家になりたかったソール・ライターにとって色は重要だった。撮影時には絵画的なアプローチをとった。例えば私の大好きな作品の一つ『バス停』では、上半分は真っ黒で何も写っていない。写っていないからこそ、下に見える色が生きてくる」と話した。
ライターは1948年にカラーフィルムを使い始め、街のさまざまなシーンを撮影した。当時、カラー写真は商業写真に使われるもので、芸術作品はモノクロだとの認識があり「考えられないような冒険的なアプローチだった」とアーブ。「本当の芸術家ではない」と多くの人々から非難されたが意に介さず、ストリートスナップを撮り続けたという。
雨や雪の日に結露した窓ガラスを通して街行く人々を写した作品には、叙情が漂う。
ファッション写真もストリートスナップを撮るのと同じ手法を使い、さまざまなファッション雑誌で仕事をしていたが、81年には商業写真のスタジオを閉じ、隠居生活に入った。自分のための撮影を続け、新しい技術にもなじみ、晩年はデジタルカメラを25台も所有していたという。
94年ごろ英国の写真感材メーカーから資金提供を受け、撮りためたカラー作品が初めてプリントされ、97年に個展が開催された。この個展をギャラリーのスタッフとして見たアーブは「多くの人に見てもらうべき作品」と感じ、作品集の出版に奔走。この頃からアシスタントとして、作品の整理に関わるようになった。
2006年にドイツの出版社から写真集「Early Color」が出版されると世界的な反響を呼び、83歳のライターは「カラー写真のパイオニア」として注目された。
ライターの死後、40年以上にわたって暮らしたニューヨークのアトリエ兼アパートには、膨大な作品群が未整理のまま残された。アーブが代表となってソール・ライター財団を立ち上げ、カラー作品だけでも8万点以上にのぼる作品のアーカイブ化を進めている。
会場では、こうした未整理のカラーポジフィルムのごく一部を約8分のスライドにまとめて世界初公開。雨傘や雪景色、反射するものなど、ライターらしいモチーフを堪能できる。
3月8日まで。1月21日と2月18日休館。一般1500円ほか。問い合わせはハローダイヤル03(5777)8600。