1. ホーム
  2. 神奈川新聞と戦争
  3. (115)1941年 「フランス流」を否定

神奈川新聞と戦争
(115)1941年 「フランス流」を否定

神奈川新聞と戦争 神奈川新聞  2019年11月24日 05:00

「化粧異変」と題したレオン洗顔クリームの広告=1941年2月20日付神奈川県新聞
「化粧異変」と題したレオン洗顔クリームの広告=1941年2月20日付神奈川県新聞

 1941年2月20日の神奈川県新聞(本紙の前身)に掲載されたレオン洗顔クリームの広告の題名は「化粧異変」。長い本文では、化粧で美しさを演出するフランス人女性に対し、日本女性には清楚(せいそ)な美しさがあることが強調された。

 「昔お化粧上手と言はれるには、良い白粉(おしろい)や紅頬(こうきょう)と、それを美しくぬりこなせる技巧とを持たねばならなかつたもの-。だから派手ずきで、しかも良い化粧料に恵まれてゐたあのフランス婦人の華(はなや)かなお化粧法を遙々(はるばる)、研究にまで出かけた専門家もゐた訳(わ)けです」

 かつて化粧の手本はフランスにあり、おしろいを“塗りこなす”ことが重要とされていた。本文は経緯をそう説明した上で、現状を否定する。「けれど時代は変りました」。いくら良い化粧品があっても、あるいはフランス流の巧みな化粧法を身に付けても「落第(だめ)!」というのだ。そして次のように続ける。

 「まづ、一切の虚飾(かざり)を捨て去つた日本女性本来の清楚さ、簡素の中の美しさを創(つく)ること-それだけが問題になつたのです」。日本女性というものは、既に「本来」の美しさを持っている。その美しさとは「清楚さ」である-。この一文は「美」の定義を転換するものだった。

 注目すべきは「虚飾」の語である。虚飾の意味は、内容が伴わず外見だけを飾ること。つまり元来美しい日本人に対し、フランス人の美はうわべだけである、との含意もあったのだ。

 17行にわたる長い説明文は、次のように結ばれている。「サア!科学的なレオンで、貴女(あなた)の本当の美しさを磨き出して下さい。レオンこそ、色黒、ニキビ、肌アレなどを、芯から色の白い艶肌にする純国産の簡素美肌料なんですから」

 繰り返される「本来」「本当」「芯から」といった語句は、国籍や人種で優劣を決めるレイシズム(人種主義)に通ずる。この文脈で用いられた「純国産」の語は、国家主義を含んだだろう。「簡素」と「美」を結合するレトリック(巧みな言辞)は、物不足ゆえ質素にならざるを得なかった家具が「簡素美」と称揚された戦時家具のくだりで、既に述べた通りだ。

 統制経済において、不要不急のレッテルを貼られかねない化粧品会社は、このように国策に迎合し、存在意義を保とうとしていた。


シェアする