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【シネマ散歩】
【家族を想うとき】現代社会にぶつける怒り

カルチャー 神奈川新聞  2019年11月29日 19:51

photo: Joss Barratt, Sixteen Films 2019
photo: Joss Barratt, Sixteen Films 2019

 12月13日から横浜のシネマ・ジャック&ベティほか全国順次公開。

 前作で引退を宣言していた83歳の名匠が、その表明を撤回してまで製作に臨んだ意欲作。劣悪な労働環境に翻弄(ほんろう)される現代家族の姿を、リアリティーと説得力をもって伝える傑作だ。

 英国・ニューカッスル。宅配ドライバーのリッキー(クリス・ヒッチェン)=写真左=はフランチャイズ契約の厳しい規則に縛られ、1日14時間の重労働を強いられている。妻のアビーはバス移動で複数の家庭を訪ねる介護福祉士。交通費は自腹ながら、最低賃金で激務を負う。

 朝から晩まで働き詰めの夫婦は、思うようにわが子のそばにいられない。やがて高校生の長男が道を外す。

 個人事業主のリッキーには労災が適用されない。事故に遭って負傷してもすんなり休暇が取れず、代わりの運転手を見つけなければ罰金が科されてしまう。自己責任を押し付ける社会が、尊厳も、安定も、家族のささやかな笑いさえも無慈悲に奪う理不尽を、本作は全編を通して突き付ける。

 厳しい労働条件の下、英国で病死した配送ドライバーがモデル。労働者が追い込まれるさまを綿密にリサーチした監督が、その実態を世に問おうと再びメガホンを取った事実は重い。

 日本を含め、世界中で拡大する貧困と格差。終盤に響くアビーの悲痛な叫びは、監督が現代社会にぶつける怒りそのものだ。目を背けてはならない現実がそこにある。

監督/ケン・ローチ 
製作/英国、フランス、ベルギー、1時間40分


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