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【K-person】東雅夫さん
“おばけずき”な文豪たち 見えない世界を大事に

K-Person 神奈川新聞  2019年11月24日 12:00

東雅夫さん


東雅夫さん
東雅夫さん

 今年、没後80年の節目を迎えた作家、泉鏡花を中心に“おばけずき”な文化人たちが夜な夜な繰り広げた怪談会の様子をルポルタージュ風に紹介した「文豪たちの怪談ライブ」(ちくま文庫)。鏡花らが体験した怪談実話も多数掲載しているユニークな本だ。

 「川端康成や森鷗外といった文豪たちによる怪談のアンソロジーを手掛けるうちに、明治末期から昭和の初めにかけて鏡花をはじめとする文化人たちが怪談で盛り上がっているな、と気付いた」

 鏡花は同好の人々から「妖怪(おばけ)の隊長」などの異名で呼ばれ、柳田国男や芥川龍之介、新派俳優の喜多村緑郎、画家の鏑木清方らと、奇怪な話を持ち寄って語り合う「百物語」をしばしば行った。


「文豪たちの怪談ライブ」表紙
「文豪たちの怪談ライブ」表紙

 明治維新と文明開化によって急速な近代化が進み、幽霊や妖怪は旧時代の異物として恥ずべきものとみなされていた。だが、日清・日露戦争では、外国に勝利したのに多数の死者が出るなど、社会の矛盾が明らかになった。

 「今までわれわれがやってきたことは正しかったのか、と特に若い人を中心に反省する動きが起こった。時代に反抗するカウンターカルチャー的なところがあったのかも。先輩たちが捨て去ってしまったお化けや怪談に引き付けられ、面白いものを感じたのでしょう」と分析する。

 自身は、遠方の神社へ講を組んで参詣する祖母らの影響で、幼い頃から霊的な世界は身近だった。小学6年で、渋沢龍彦が編んだ怪奇幻想小説集に熱中した。

 「自由な校風だった」と振り返る県立横須賀高校ではSF研究会に誘われ、会誌「百鬼夜行」に渋沢論などを書きつづった。1982年に専門誌「幻想文学」を創刊。憧れの渋沢にインタビューを行い、新設した「幻想文学新人賞」の審査員を務めてもらった。「若い連中が貧乏ながら夢中でやろうとしていることを、意気に感じてくれたのかな」

 鏡花らの怪談ブームから100年後の今、再び社会的なブームになっているという。「怪談文芸は死者を思う文芸という特殊な位置付けにある。多くの方が亡くなった東日本大震災をきっかけに、目に見えない世界が実はとても大事なものではないか、と見直されている」

ひがし・まさお
 アンソロジスト、文芸評論家。1958年、横須賀市生まれ。県立横須賀高校を経て、早稲田大卒。「幻想文学」「幽」編集長を歴任。「文豪怪談傑作選」シリーズ(ちくま文庫)をはじめ編著多数。「遠野物語と怪談の時代」(角川選書)で2011年日本推理作家協会賞受賞。主な著書に「百物語の怪談史」(角川ソフィア文庫)、「文学の極意は怪談である」(筑摩書房)、編さん書に「文豪ノ怪談ジュニア・セレクション」シリーズ(汐文社)、「平成怪奇小説傑作集」シリーズ(創元推理文庫)、監修書に「怪談えほん」シリーズ(岩崎書店)などがある。19年8月「文豪たちの怪談ライブ」(ちくま文庫、990円)を刊行。

記者の一言
 鏡花らの怪談会には、新聞記者が同行していた。花柳界の話題などを得意とする軟派の新聞が「百物語」を1話ずつ掲載し、読者からも投稿を募るなどして大人気だったのだ。「戦前の怪談ブームで新聞が果たした役割は大きい」と東さんは指摘する。もしかしたら本紙の前身、横浜貿易新報にも記事があるかもしれない。鏡花も清方も鎌倉や逗子に居住していた時期があるし、と楽しくなった。そんな話を取材中にしていたら「かなりお好きですね」と怪談好きを見抜かれた。霊感はないが、古今東西の怖い話や不思議な絵が好きだ。昨年、金沢へ旅行した際、絶版となっている東さんの貴重本を古書店でたまたま入手したこともあり、満を持しての取材。東さんの拠点が東京と金沢と知り、奇妙な縁を感じた。


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