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2019年10月の記事から
【ウェブ版解説】災害報道が変われば社会も変わる

ジャーナリズム時評 神奈川新聞  2019年11月20日 02:00

 一連の自然災害の対応については、神奈川新聞本紙においてもさまざまな角度から多くの検証がなされている。たとえば、障害者などを対象とした「福祉避難所」の情報伝達(11月17日付)のあり方は、少し前の災害弱者の事前避難の困難さを指摘する通信社記事(10月30日付)の続報だ。

 ちなみに、今回の台風で川崎・相模原は福祉避難所の開設自体を行っておらず、それも含め本来であれば、もう一歩踏み込んで県内の対応を検証する必要があるのではないか。同欄は毎週日曜日に掲載される「減災新聞」で、「継承・対策・現状・検証・予測」のタグをつけ、全国各地の状況を伝えるものであるが、現状の改善に具体的にどう結び付けるかが問われる。

 また自然災害とは異なるが、沖縄・首里城火災事故に関しては、文化資産の防火対策の必要性を記事のほか社説などで論じているが、神奈川における喫緊の課題は川崎市市民ミュージアム収蔵庫の水没である。地下に収蔵していた貴重な絵画やマンガの原画や写真など、26万点が浸水したと報じた(10月19日付)のち、11月段階でも、被害全容はつかめないとの川崎市発表を報じている(11月6日付ほか)。

 これは明らかに、川崎市としての緊急レスキューの対応が遅れていることの裏返しであって、現場の危機感や緊急性が伝わることなく、その間にも貴重な文化財が刻々と失われている状況があると推察される。一刻も早く泥水から引き上げ、冷凍処理をするなどの対応が、市の予算措置等の遅れなどから十分にとられていない可能性があるからだ。むしろ、こうした状況を伝えることが報道機関の使命でもあろうが、残念ながらこの機能は今日現在、果たされているとは言い難い。

 また、上記のミュージアムは既存のハザードマップにおいても、浸水区域であったことの指摘がなされているが、そのマップが示す浸水想定区域以外で浸水が発生していることも紙面化されている(10月29日付)。ただしこの1面トップの記事も、もっぱら台風21号と低気圧の影響による千葉県や福島県の話であって神奈川の実態には触れられていない。

 同じことは、土砂災害警戒区域の指定についてもあり(10月28日付)、千葉県の状況が報告されているが、おそらく同じ事態は県内においても発生可能性が高まっているのではないか。実際、記事化されている横浜市金沢区の工業団地や茅ケ崎海岸はじめ、危険可能性をどう可視化するかは大きな課題だ。

 従来、行政が作成するハザードマップ等は、地価への影響などもあり、積極的に周知されることがなかった。本来であれば、不動産売買情報において、必須項目として表示の義務付けがあってもよいわけだし、報道機関もより積極的にその正否を確認すべき対象であったが、いわば「遠慮」が働いていたのではないか。

 本紙当欄で指摘したように避難所の改善も同じである。経験した者ならば誰もが思っている、「体育館で雑魚寝」を当然視する現状の理不尽さを、十分に訴えてこなかった現実がある。その意味では今回、本紙を含めいくつかのメディアが避難所の地区割の非合理性、路上生活者を住民票なしを理由に受け入れない非人間性、そして極端に生活レベルが低下する避難所生活の設置基準について、ようやく紙面化されたことは一歩前進だ。

 県内においても一時避難所で、同様の事例が発生しているだけに、具体的に踏み込んだ指摘も必要だろう。なお10月13日付紙面でも、各自治体によって避難所の対応に違いがあることは写真等から推察できる。したがって、問題意識さえあれば、後日の検証は可能なはずだ。

 本紙社説(10月19日付)では、「災害を『わがこと』と受け止める姿勢が問われている」としているが、あえて辛口でいえば、まず報道機関自体が自身の問題と認識することが求められよう。先に挙げたように、報道内容が一報だけで終わったり、他県の紹介にすぎないことで、身近な問題にブレークダウンされていないきらいがあるからだ。県内の状況をきちんと情報を収集・分析していくことで、行政や地域コミュニティーの対応の改善策を示していくことにつながるのではないか。

※詳しくは、本紙版「ジャーナリズム時評」https://www.kanaloco.jp/special/discourse/journalism_review/をお読みください。

山田健太(やまだ・けんた 専修大学教授) 専修大学ジャーナリズム学科教授・学科長。専門は言論法、ジャーナリズム研究。日本ペンクラブ専務理事。主著に「沖縄報道」「法とジャーナリズム 第3版」「現代ジャーナリズム事典」(監修)「放送法と権力」「ジャーナリズムの行方」。


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