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時代の正体 表現の自由考
抗議への返事に怒り知事発言

時代の正体 神奈川新聞  2019年11月09日 10:52

定例会見の言葉・表現の自由に対する知事の発言
定例会見の言葉・表現の自由に対する知事の発言

 国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」の中止に関連し、黒岩祐治知事は8月、同展の出展作品である日本軍の慰安婦を象徴した「平和の少女像」を「事実を歪曲したような政治的メッセージ」と断じた上で中止を支持し、市民団体などから発言の撤回を求める抗議が相次いだ。こうした声への「県」からの返信が10月、一斉に届き、新たな怒りを呼んでいる。「知事は表現の自由を全く理解していない」「萎縮を後押ししている」。果たして、知事の返事とは-。

 発端となった記者会見が開かれたのは8月27日。少女像などへの抗議が殺到し、中止となった不自由展について「同じことが県内であったら開催を認めない」などと知事は述べた。

 その後、批判が広がったことを受けて9月3日の会見で「誤解を与えたことは率直におわびしたい」としながらも発言は撤回せず「表現の自由とは全く別の問題。税金を使って展示することは県民の理解を得られない」と繰り返した。

 一連の発言には、県内の市民団体や個人から抗議、発言撤回の要請が相次いだ。

 例えば市民団体「共同行動のためのかながわアクション」は41団体、141個人と連名で9月5日に抗議文を提出。「『検閲の禁止』を全く理解しておらず、首長にあるまじき見識のなさ」と批判し、少女像は事実をわい曲しておらず、韓国側からの一方的な主張でもないとした上で「紛争下の性暴力犯罪という重大な人権問題を否定する知事の態度こそ大きな問題」と指摘した。

 元慰安婦を描くドキュメンタリー映画「沈黙-立ち上がる慰安婦」の朴(パク)壽(ス)南(ナム)監督や自主上映を進める市民団体など58団体、340人も同月26日に撤回を求めた。河野談話や日韓合意で表明した「日本政府のお詫(わ)びを反故(ほご)にし、日本の加害の責任を全く省みない暴言」と非難し、「沈黙」の上映に対して続く右翼団体などからの妨害に「お墨付きを与え、差別を助長し、行政の萎縮に拍車を招きかねない」と懸念した。

 これら抗議への返事は10月、知事室長や同室課長の名義で順次、メールなどで届いた。「9月3日の会見内容を基本に知事の考えとして出した」(知事室)という内容はいずれも共通している。

 「表現の自由を理解していない。この内容で表現の自由を尊重していると知事や県が本気で主張しているのだとしたら、県民として不安と恐怖を覚える」。10月26日にメールで返事を受けたライターの北川原美乃さん(54)は、声を強める。

 知事の発言を知り8月29日、一個人として県にメールで抗議した。芸術作品に政治的メッセージが含まれていることは当然であることや、芸術や文化の内容の是非を知事が判断すべきでないことなどを述べた上で、「神奈川県なら開催しない」との発言は「重大な憲法違反」と撤回を求めた。

 会見で知事は少女像が「韓国の政治的メッセージ」であると一方的に断じた上で、「開催しない」と発言した。北川原さんはあらためて「公権力が『Aが意味するところはBである』と判断し、だから展示しないと取り扱いを決定することは、公権力が作品の内容に立ち入ることであり、そのこと自体が憲法に反している」と強調する。

 また返事への懸念はほかにもある。「国レベルで解決済みの事柄に反対意見を述べるな、と言っているようだ」。たとえばハンセン病差別の問題については、国レベルで解決している。「この論法だとこれらの問題にも個人が異論を述べてはいけないことになる。過ちを繰り返さないためにも、負の歴史は何度でもいつまでも発信される必要がある」と訴える。

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