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酒と涙と男と天ぷら(19)
浮世絵(3) 時空をつなぐメル友

話題 神奈川新聞  2019年06月28日 02:01

 お茶屋の栗ちゃんと浮世絵収集家・新藤茂先生の本牧連合の助けを得て十年越しの恋を実らせ、浮世絵美人絵図「月岡芳年作・天ぷらを食べる遊女」(江戸末期ごろ)を手に入れたのが十年前。

 晴れて私のモノとなった浮世絵のおネェさんは、今では私の目の前のレンガの壁に飾られ、満足そうに天ぷらを食べています。そして毎日、切れ長の艶(つや)っぽい目をさらに細めて、お店に入ってくるお客さまにほほ笑みかけているのです。

 さらに、この話にはオマケが付いています。最近、私とガラ(呉服屋の若旦那)が、高校時代から大好きだったミュージシャンの寺田十三夫さんとお会いすることができました。これは、やはり大ファンである妹が、三十年ぶりに寺田さんのCD(信天翁(あほうどり))を街で見つけ、うれしさ極まり、ナント、寺田さんに匿名でメールを送ったのがキッカケでした。

 二人はめでたくメル友となり、ある時、妹は何かの拍子に「寺田さんの大ファンである兄(つまり私)は、関内で吹けば飛びそうな天ぷら屋のおやじです」とメールに書いたんです。それだけで寺田さんてば、妹の素性にピンときたってんだから何だかスゴイ! そして普通にファンメールを送っている妹もこれまた何だかスゴイ! おかしなメル友ですよね。ちなみに寺田さんがうちの店に来ての第一声は「もしかして、ここの娘さんって…?」でしたもんね。


浮世絵美人を守る金剛力士像2体。いえいえ、うちの料理長です
浮世絵美人を守る金剛力士像2体。いえいえ、うちの料理長です

 この出会いで、ガラと妹と連れ立って寺田十三夫さんのコンサートに行くことができました。実は寺田さん、病気で一度倒れ、半身がまひしてギターを弾けなくなっていたそうです。それをリハビリで克服して臨んだコンサートでした。良かったですよぉ、そりゃもう楽しくて、われわれ同世代も元気づけられる素敵(すてき)な夜となりました。

 さて、オマケの本番です。そのスゴイ寺田さんご夫妻がウチの店にやってきたときのこと。店に入るなり、浮世絵を見て、奥さまがビックリ! そして誇らしげにこう言ったのです。「この絵は私のひいおじいさんが描いたんですよ!」「ふぇーっ! 本当れすふぁ?」

 思わず取り乱した私は、その時、奥さまの後ろでニッコリと僕に笑い掛けている月岡芳年さんが見えたのです。浮世絵のおネェさん、ありがとう。おかげであなたの生みの親と会うことができたよ。

 時空を超えた私の恋は、こうしてハッピーエンドを迎えました。世の中はこんなふうに縁でつながっているんですね。悪いことをするとひ孫に怒られるぞ。

(2005.3.6)



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