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酒と涙と男と天ぷら(18)
浮世絵(2) すれ違って10年目

話題 神奈川新聞  2019年06月28日 02:00

蛇の道ならぬ、蛇の店…(痛っ)。この店の3代目は筆者の小学校時代の同級生=横浜市中区伊勢佐木町のへびや
蛇の道ならぬ、蛇の店…(痛っ)。この店の3代目は筆者の小学校時代の同級生=横浜市中区伊勢佐木町のへびや

 ある日、偶然出会った小粋な姉さんに衝撃的な恋をした私は、彼女と一緒になる日を夢見る若旦那だった。でも…彼女は、なんと浮世絵美人だったんです。名前は分かりませんが、江戸後期から明治にかけて活躍した浮世絵師、月岡芳年が描いた連作「風俗三十二相」の一枚「うまそう」の中で、本当にうまそうに天ぷらを食べている女性、嘉永年間の品川辺りの遊女が、その人でした。

 実は初めて会ったとき彼女に誓ったことがありました。もしも将来ウチの店を建て替えるようなことがあるのなら、あなたに似合う天ぷら屋にしましょうね、ということでした。この誓いはその日の絵日記にはっきりと描いておきました。十七年後、建て替えとまではいきませんでしたが、全面改装する時がやってきました。私はさっそく設計士さんに彼女を紹介して顔合わせをし、こう言いました。「優しくしてね」

 さて、彼女を手に入れるためには、ウブな若旦那はどうすればよいんでしょう? 浮世絵といったらアート、まずはギャラリーを経営している友人に頼んで探してもらうことになりました。半年ほどたったある晩のこと…、「もしもし、今オークションに来てて、例のアレが目の前にあるんだけど、どーする?」「もちろん、すぐ買う!」「五十万円だって」「十分待ってて」。恥ずかしながらそのころ、浮世絵ってそんなにするとは思いませんでした。あれほど恋い焦がれたヒトなのに、不覚にも一瞬考えてしまいました。それが命取り、十分後にはほかの誰かのモノになっていました。

 これだからお坊ちゃんは甘いって言われんだよね。(金もないのに自分でお坊ちゃんて言うな!)。こうなるともう執念ですよね。追いかけても追いかけても彼女とはすれ違いが続き、二度目のチャンスはなんと十年後でした。キッカケはお茶屋の栗ちゃんのひと言でした。「浮世絵の収集家に頼めば? 蛇の道はヘビっていうじゃん」。そりゃそうだ。栗ちゃんは、ご近所の浮世絵収集家の先生まで紹介してくれました。一カ月後、先生からさっそく電話が入りました。

 「ふっふっふっ、アレが手に入りましたよ」「さすが越後屋。で、いくらですか?」。また値段から聞いてしまった。恋い焦がれてたんじゃないのかよ! でも、さすがプロのコレクターですよね。浮世絵専門の骨董(こっとう)市をアチコチ訪ねて探してくれたそうです。先生、その節はありがとうございました。大変だったでしょ? やっぱり「じゃの道はヘビー」ですよねぇ… じゃーねーって、この話、まだ続くのか?

(2005.2.20)



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