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酒と涙と男と天ぷら(14)
プロジェクトXマス サンタの顔

話題 神奈川新聞  2019年06月28日 01:54

あなたのサンタは、どんな顔をしていますか?
あなたのサンタは、どんな顔をしていますか?

 平成元年十二月二十四日の晩だった。居間のガラス戸の向こうを、赤と白の奇妙なコントラストの人影が横切っていったのが見えた。親父(おやじ)だった。いや親父のようなサンタだった。

 クリスマスが近づいてくると必ず、親父は子供や孫たちを喜ばすため、いろいろ構想を練っていた。一番喜んでいたのは間違いなく親父だった。

 この日は珍しく、私と妹の家族が勢ぞろいしてゲームに興じていた。三歳から九歳まで四人の子供たちは、猫の額のような狭い居間を縦横無尽に転げまわっていた。その時、親父が何げにゲームを抜け出し、外に出て行ったのが見えた。

 庭の植え込みに隠してあったサンタの衣装を素早く身に着け、たっぷりとした白いヒゲをつけ、メガネを外して鈴を鳴らし始めた。鈴の音は冬のいてついた空気を震わせ、孫たちに届けとばかりに響き渡った。

 リンリンリン…。「エー、サンタだよ。サンタ」。リンリンリン…。

 誰の耳にも届かなかった。サッシの戸は外の音を遮断し、室内はテレビとゲームに興じる笑い声であふれていた。

 リンリンリン…。「サンタだよっ! サーンタッ!」。リンリン…。

 その時、妹が立ち上がった。そして、こう言った。「アレッ! 鈴の音が聞こえる!」

 みんな「聞こえないよー」

 妹「いや、聞こえる。絶対に鈴の音だ!」と叫ぶや、サッシを開け放った。

 その時、サンタはすでに玄関まで到達し、庭には誰もいなかった。

 妹「きっとサンタさんだ! サンタさんが来たんだ!」

 その声を聞いてサンタは走った。庭にたどり着いた時、すでにサッシは閉まり、暗闇が彼を待っていた。気を取り直して玄関まで戻り、ドアのノブを回した。鍵が掛かっていた。

 あわてたサンタは鈴をかき鳴らし、妹が再びそれに答えた。

 「サンタさんだ! 誰だ? 鍵掛けたの!」

 私だった。

 妹「みんな集まれー。サンタクロースが来たよ」

 サンタ「サンタクロースじゃよ」

 孫たち「いや、おじいちゃんだ」

 その時、母が言った。「あなたたち、よく見なさいよ。サンタさんでしょ?」

 孫たち「あっ! ホッ、ホントだ。サンタさんだ」

 母は強かった。

 孫たち「サンタさん、プレゼントは?」。プレゼントの入った大きな袋は、庭の植え込みの陰にひっそりと置かれたまま苦笑していた。こうして親父のプロジェクトは幕を閉じたのだった。

 クリスマスが近づくと五年前に亡くなった親父のことを思い出します。親父は子供たちよりも、子供のようにクリスマスを楽しみにしていました。

 今年もクリスマスには、大勢のにわかサンタクロースが活躍するといいですね。私のサンタさんはいつまでも、親父の顔をしています。

(2004.12.19)



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