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2019年5月の紙面から
【ウェブ版解説】厚いベールをはぐ努力を

ジャーナリズム時評 神奈川新聞  2019年06月19日 05:00

 私たちは、天皇および天皇制にまつわる事柄について、知っているようで知らないのかもしれない。その理由は、情報量が少ないがために「なんとなく」そんなものなのかと思ってしまうものが多いからだ。一般の事象であれば、その情報ソースはさまざまだし、報じるメディアも、今ではネットを通じて真偽の別はあるにせよ、多様な知見が紹介されている。しかし、こと天皇に関してはその蛇口である宮内庁(政府)の段階で情報がストップすると、なかなか内部情報が漏れ出すことも少なく、私たちが真相を知るチャンスは一気に狭まるという傾向があるからだ。

 その1つは、本紙記事(6月19日付け)でも指摘した「元号」にまつわる問題だ。本来であれば、元号(和暦)を使用するかしないかは、個人の気持ちの問題であって、自由な選択が原則だ。元号がまぎれもなく天皇制と結びついているだけに、人によっては違和感をもつ人もいるだろう。あるいは、仕事の上でもわざわざ元号を使うことに煩わしさを感じている人は少なくない。

 しかし実際は、公的機関の「和暦(元号)縛り」は以前より強くなっている実感がある。例えば、公的機関への提出書類は、ネット上で行うものやダウンロードして使用するものが増え、これらは元号仕様が強制される(西暦では物理的に提出不可能である)。また、こうした公的機関の元号仕様に合わせざるを得ない形で、一般私企業や組織においても、実質的な強制が進む風潮がある。

 元号法ができたのはいまから40年前の1979年だが、その時に政府は国会答弁で、「(元号は)慣行によって行われ、協力を求めておる、強制するというものではないことは言うまでもございません」(担当所管の自治大臣)と明確に、しかも繰り返し回答している。さらに約10年後の87年には当時の総理大臣・中曽根康弘名で、「国・地方自治体等の公共機関が元号を使用すべき憲法上の義務はない」と政府見解を閣議決定までしている。にもかかわらず、元号使用の強制性がむしろ強まっているのはどうしてか、それを解明することはジャーナリズムの仕事だろう。

 もう1つは、国事行為の不透明感である。宮内庁ウェブサイトには、「ご即位・立太子・成年に関する用語」や「皇室の経済に関する用語」の解説が掲載されている。たとえば、「剣璽等承継の儀(けんじとうしょうけいのぎ)」が、「天皇が皇位を継承された証(あかし)として剣璽・御璽・国璽を承継される儀式」であるとし、さらに、「皇位(こうい)とともに伝わるべき由緒ある物」として、「三種の神器(鏡・剣・璽)・宮中三殿(賢所・皇霊殿・神殿)のように皇位とともに承継されるべき由緒ある物」があるとする一方で、「皇室財産・皇室の費用」として、「内廷費・皇族費・宮廷費」があり、それぞれの国会承認された予算額が記されている。このうち、公的活動に使用されるのが宮廷費で19年度の場合、約111.5億円であるが、これらと先の行事との対比関係は書かれていない。

 わずかに細切れの報道によって、三種の神器の生前贈与に伴う贈与税は、先の昭和天皇から現上皇への相続税がゼロであったことに鑑み(総体としての相続税は約4億円と言われている)、今回もゼロであるとか、皇位継承行事の1つである「斎田点定(さいでんてんてい)の儀」で決まった、田から収穫されるコメの購入費は宮廷費で賄われる、などがわかるのみである。しかし、この儀式は秘儀(非公開)とされており、そこで行われる儀式を担当するのもいわゆる公務員(宮内庁職員)ではなく天皇家の私的職員であるとされる。公式行事で公費を使用する限りは、行事そのものがどのような中身かについて、政府は説明責任が生じるのではなかろうか。そして現在は情報公開法の範囲外とされているこれらの事項について、きちんと公開のルール化を求めていくことも、ジャーナリズムの役割に違いない。

 このもっと知りたいの要求は単なる興味本位ではなく、憲法で定められた象徴として天皇(公人中の公人)に関する知る権利の行使であることを、政府はきちんと理解し、報道機関も、厚いベールをはぐ努力をしてほしい。

山田健太(やまだ・けんた 専修大学教授) 専修大学ジャーナリズム学科教授・学科長。専門は言論法、ジャーナリズム研究。日本ペンクラブ専務理事。主著に「沖縄報道」「法とジャーナリズム 第3版」「現代ジャーナリズム事典」(監修)「放送法と権力」「ジャーナリズムの行方」。


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