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【K-Person】大崎梢さん
横浜舞台にミステリー 開港の歴史重ねる

K-Person 神奈川新聞  2017年07月30日 10:21

大崎梢さん
大崎梢さん

大崎梢さん

 新刊の「横濱エトランゼ」(講談社、1512円)=写真=は、元町や馬車道といった横浜の観光地を舞台に、開港にまつわるエピソードを盛り込んだ謎を女子高生が追っていく短編集だ。


「横濱エトランゼ」表紙
「横濱エトランゼ」表紙

 自身も横浜で暮らして30年ほどになるが、開港以来の歴史を調べていくと知らないことがたくさんあったという。

 「元町にあった百段階段の写真には、階段の途中で白い傘をさしてたたずむ少女の姿が見えるんです。関東大震災で壊れてしまったけれど、ここにあったんだということは分かる。遠いようでいて、近さもある時代ですね」

 謎を解いていくのは、中区・関内駅近くにあるタウン誌「ハマペコ」編集部でアルバイト中の千紗。「戸塚の奥。横浜市の外れで藤沢市のすぐそば」に在住の設定で、物語の舞台となる関内外地区や元町には詳しくない。

 そんな千紗と一緒になって、昭和生まれなのに百段階段での思い出を懐かしむブティックのマダムの謎などを、読者も不思議がることができる。歴史に詳しい人は「もしかしてこういうことかな」と推察して読み進める楽しさがある。

 複雑に絡まった謎を解き明かす人物に憧れ、ミステリーを書き始めたという。「自分が犯人を知っていることが驚き」だと笑う。

 本好きで書店に勤めていたが、小説家になるとは思ってもみなかった。結婚後は2人の子を育てる普通の主婦。ちょうどその頃、一般の人が自分で書いた小説をネットで発表することが増えた。「普通の人も書いていいんだ」と、見よう見まねで小説を書き始めた。

 7年ほどいろいろな文学賞に応募したが、日の目を見なかった。カルチャーセンターの小説執筆講座へ申し込むために提出した短編が講師の目に留まった。書店を舞台にしたミステリーで、翌年のデビュー作となる短編集「配達あかずきん」の1話目だった。講師は東京創元社の元社長で編集者の戸川安宣さん。

 「出版するよう会社に話をすると言われましたが、当時は元社長さんだとは知らなくて。現役社員でもなく、辞めた人なのに大丈夫?と思っていました」

 どの作品も温かみのある読後感が魅力で、読者を引きつけている。巧妙にヒントをちらつかせ、伏線を張り、と仕掛けがものをいうジャンル。「書いても書いても難しい」と嘆くが、書き手自ら探偵役を大いに楽しんでいるように見えた。

おおさき・こずえ 作家。東京都出身。横浜市栄区在住。書店勤務を経て、2006年「配達あかずきん」(東京創元社)でデビュー。同作が1作目となる「成風堂書店」シリーズをはじめ、ミステリーを中心に著書多数。名探偵SENシリーズ(ポプラ社)などの児童書も手掛ける。近著に「誰にも探せない」(幻冬舎)、「スクープのたまご」(文芸春秋)、「よっつ屋根の下」(光文社)、「本バスめぐりん。」(東京創元社)など。17年6月「横濱エトランゼ」(講談社)発売。

記者の一言
 元町の百段階段は、現在のフランス料理店霧笛楼の裏辺りにあったようだが、崖となっており見る影もない。近くに元町百段公園と名付けられた公園があるが、再現されているわけではない。大崎さんは関東大震災で壊れてしまったこの階段を、昭和の初めに生まれた女性が懐かしむという謎に仕立てた。ミステリーといっても派手な殺人事件が起こるわけではなく、そこに暮らす人々が抱く郷愁や愛情が絡み合う事件を扱っている。

 「配達あかずきん」も駅ビル内の成風堂書店を舞台に、本に関連した奇妙な謎を書店員が解明していくもの。と同時に書店への愛情がたっぷりで、本好き、書店好きにはたまらないトリビアの宝庫だ。取材後は大崎さんの姿をしっかり者の書店員・杏子さんに重ねて読んでいる。


大崎梢さん
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