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酒と涙と男と天ぷら(3)
秘伝の地酒 飲めども飲めども…

話題 神奈川新聞  2019年06月28日 01:30

 秘伝…ズッシリとした重量感ある言葉ですよね。代々伝わる門外不出のモノ。血のにじむような修業を何年も積まねば手に入らない。そんなイメージあるでしょ。その秘伝をついに手に入れることができました。十年ほど前の春のことです。

 五メートル先も煙って見えない土砂降りの日、なぜか山形県酒田市の酒田まつり前夜祭でロックを歌っていました。ヨコハマ・スマイリングバンドという中年バンドをやっていて、友人のつながりで招待されたのです。音だけビッグなバンドを招待してくれた酒田人の勇気と好奇心に乾杯です。

 土砂降りの中、二人の聴衆がずっと見ていてくれました。「よっしゃ、この二人のため燃焼するぜ!」 大雨でキーボードが故障しても中断なんて誰も考えません。怒涛(どとう)のアンコールも終わり、熱い涙が込み上げてきた時、二人がステージに駆け上がって来ました。「えっ! 信ちゃん、谷ちゃん、横浜から来てたの?」「うん、一緒に酒でも飲もうと思ってさー」。…酒田の人が、誰もいないじゃん。

 ビッショリぬれた体を引きずるように宿に帰ると、大宴会が待っていました。酒田人は心が広い。食べきれないほどの料理に、目もくらむような芸者さんがなんと、一人に一人ですよ。私はもちろん女房つき、このパターン慣れてます。暗い記憶はアッと言う間にリセットされ、楽しい宴会が始まりました。

 食べても食べても尽きない料理、語っても語っても尽きない会話、飲めども飲めどもアレッ。おれ、こんなに飲めたっけ? 酒田の地酒「秘伝」との出会いでした。

 何よりも驚いたのは翌朝、あれだけ飲んだのにスッキリさわやか、こんな酒あったんだ。早速、酒田の田越君に蔵元を紹介してもらいました。蔵元いわく、「秘伝は食中温として料理を引き立てることを目的としたお酒です。香りも味も抑えめに、しっかり料理を支えます」。どうです。優しくて強い酒田人そのものでしょ。

 「江戸時代、酒田では三十六人衆といわれた回船間屋の合議で町の運営が決められていまスた。日本で初めて合議制を採府した即,なんダス」と、酒田の池田君が言ってました。協諷と自己主張がお国柄なんですね。

 さて、横浜に帰り秘伝をガンガン飲みました。もちろん、翌日は二日酔いでビクリとも動けません。酒田では、庄内平野のおおらかな空気のおかげだったんですね。横浜の空気はシビア、飲み過ぎたら見逃しません。皆さん、横浜では飲み過ぎに注意しましょう。

(2004.2.3)



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