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【K-Person】角野栄子さん
書きたいものを書く 魔女の思いに通じる

K-Person 神奈川新聞  2017年07月16日 11:55

角野栄子さん

 20年以上書き続けた「魔女の宅急便」全6巻。神奈川近代文学館で22日から行われる展覧会では、原稿や原画などを通して、その豊かな世界が紹介される。

 当時12歳の娘が描いたイラストをきっかけに誕生した物語は、アニメ化されて広く知られることになった。主人公の魔女キキが独り立ちし、恋を知り、結婚、キキの子どもたちの巣立ち-。本編は終了したが、特別編は現在も続いている。

 「実は1巻で終わりの予定で、魔女については後から調べた。ルーマニアにも行きましたね。そうしたら、書こうと思っていたキキの気持ちとそれほど違いがなかった」


魔女の宅急便の原画。林明子さんの挿絵(1巻)
魔女の宅急便の原画。林明子さんの挿絵(1巻)

 自然の中で力をもらって生きてきた欧州の魔女たち。「目に見えないもの」を想像し、大事にする暮らしは、キキが母から教えられていたものだった。

 「今は、目に見えるものばかりが最大の関心事になってしまっている。理屈っぽく書いてはいないけれど、そういうことを感覚で書いているつもり」

 手書きした原稿をパソコンで入力するが、原稿は必ず音読する。言葉が持つ意味と同じように、人の心に響いてくる音や連なりのリズムが大事になるという。

 「父がよく話を読み聞かせてくれたのね。節がついていたり、落語的だったり。言葉をもじって面白くするのが好きだったわね」と振り返る。

 「書きたいものを書いてから死にたいのよ」とにこやかに宣言する。昨年から今年にかけて、精力的に新刊を出してきた。最新刊の「靴屋のタスケさん」は、「トンネルの森 1945」と同様、自らの戦争体験をもとにした作品だ。

 「今の時代から振り返って書くと、大人の目を通したものになってしまう。押しつけがましい言葉ではなく、立ちこめていた不安な空気、そういった子どもの目で見た戦争を書きたかった」

 書きたいものを書く。それは魔女が持っていたエネルギーに通じるという。

 「魔女は相手を幸せにしたい、のではなく、幸せになってほしい、との思いから行動していた。物を書くことも同じ。自分が書きたいから書いている。それが結果的に読者に伝わっていると思う」

かどの・えいこ 作家。1935年東京生まれ。鎌倉市在住。早大卒。59年から2年間、自費移民としてブラジル滞在。70年、ブラジルでの体験をもとにした「ルイジンニョ少年 ブラジルをたずねて」(ポプラ社)で作家デビュー。以降、「ちいさなおばけ」シリーズ(同社)など多数の著作を発表。85年「魔女の宅急便」(福音館書店)で野間児童文芸賞、小学館文学賞。2000年紫綬褒章、14年旭日小綬章。16年「トンネルの森 1945」(角川書店)で産経児童出版文化賞ニッポン放送賞受賞。最新刊は17年「靴屋のタスケさん」(偕成社)。22日~9月24日、神奈川近代文学館(横浜市中区)で「角野栄子『魔女の宅急便』展」開催。一般500円など。問い合わせは同館電話045(622)6666。


記者の一言
 2001年から鎌倉に居を構える角野さん。取材で伺ったご自宅のリビングの壁や天井まで届くすてきな本棚は、少しくすんだきれいなイチゴ色で統一されていた。家を建てるとき、テーマカラーをイチゴ色に決めたという。

 近年、絵本作家を目指す人は多いが「物語がつまらなくても絵で勝負してしまう人が多すぎる」と嘆く。「子どもと一緒に面白がる気持ちがないと書けない。こうなったらどうなるって、ありえないことが起きるのが面白いのよ」

 この面白く感じるかどうかが、重要なポイント。キキが10歳になるまでの話や主人公以外の人物に焦点を当てた特別編は「面白いなと思って」書いたという。82歳にしてそんなキラキラした感性が生まれてくるとは! イチゴ色が効いているのかもと思った。


角野栄子さん
角野栄子さん

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