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【KーPerson】藤沢周さん
書くとは、世界と刺し違えること

K-Person 神奈川新聞  2017年06月04日 10:19

藤沢周さん

 剣を捨て、アルコール依存症に陥った主人公・矢田部研吾を綾野剛が、剣道の才能を見いだされたラップ好きの高校生・羽田融を村上虹郎が演じる映画「武曲 MUKOKU」が、全国で公開されている。

 原作者である藤沢自身も、46歳の誕生日に剣道を始め、4段の腕前を持つ。父が柔道家だった影響で大学までは柔の道、一筋。肉体をぶつけ合う柔道は肌で相手との間合いを感じるが、剣道は剣先が触れ合うだけ。そこに心の動揺や恐れが生じる。「驚懼(きょうく)疑惑(ぎわく)という『四病』にとらわれる」と無想無念の難しさを語る。気を静め、面金の隙間から相手の呼吸を探る。心の動きを読み、一足一刀の間合いへ。対峙(たいじ)者から技が来る「起こり」の瞬間を狙い、打ち込んでいく。


(C)2017「武曲 MUKOKU」製作委員会
(C)2017「武曲 MUKOKU」製作委員会

 
 小説では、相手の剣と技と気を殺す「三殺法」など体感に基づく文字が息づく。「起こり」が見えた時、羽田は他者と自分が一体となる境地に達する。

 〈蝉(せみ)の声も、葉群のざわめきも、道場に入ってくる風も、全部自分だ〉。その感覚は自らの内にもある。

 柔道とクラシックギターに夢中だった18歳の時、世界の成り立ちや自己の存在について悩んだ。禅僧になろうとさえ思った。生まれ育った新潟では「何か(悩みや迷いが)あったら海に行け」と言われ、真夜中に1メートル以上積もった雪をかき分けた。白いどう猛な獣のような波が目前に迫り、涙も鼻水も飛んでいった。

 「知っている冬の海だけど、何かが違う」。言葉で表現し切れないもどかしさ。頭に死がよぎるも怖くて踏み切れない。毎日海に通い、たき火をしながら狂う海を見つめた。

 冬から春へ。変わる季節の中で、「波が自分だと感じた瞬間があった」。主客合一。曇りが晴れ、佐渡島に虹がかかった。驚きをノートに記したのが、書き手への第一歩。「書くとは、世界と刺し違えること。言葉以前のものを書きたい」と研鑽(けんさん)を続ける。鎌倉の円覚寺本堂裏で、「ここに住みなさい」という声を聞き、翌日に居を構えて22年。「土地に沈殿している禅の思想に」耳を傾け続けている。

ふじさわ・しゅう 作家。1959年、新潟県出身。「ブエノスアイレス午前零時」で第119回芥川賞を受賞。矢田部と羽田の壮絶な戦いを描いた「武曲」の映画を見た後、「さらなる剣の高みを」と湧いた思いを続編「武曲2」(文芸春秋、発売中)に刻んだ。本紙日曜版の輪番コラム「木もれ日」を執筆中。

記者の一言
 立ち合い時、変わる攻守。心に渦巻く驚懼疑惑。スピードと緊張感がある筆致に、夢中で文字を追いかけた。

 「剣禅一如」「交剣知愛」など発する言葉の中に剣道用語があり、藤沢さんの内面に宿る美しい禅の精神を感じた。

 物語は当初、矢田部の師範であり、僧侶でもある光邑雪峯(みつむら・せっぽう)との関係を構想していたが、矢田部を追う若者の存在が必要と羽田が生まれた。互いを輝かせる存在として、北斗七星の中にある二連星を指す「武曲」をタイトルにした。映画の撮影中は、原作者がノコノコ出て行ってはまずいと、鎌倉の自宅でじっと我慢。綾野と村上が嵐の中、魂をぶつけ合う姿は心が震えたと絶賛した。剣道経験者の村上が剣先を揺らし、綾野がその動きに誘われ剣を動かした場面は、「村上に落ち着きを感じた」。剣士の目が光っていた。


藤沢周さん
藤沢周さん

藤沢周さん
藤沢周さん

藤沢周さん
藤沢周さん

藤沢周さん
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藤沢周さん
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(C)2017「武曲 MUKOKU」製作委員会
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藤沢周さん
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